第57話ー非凡な世界

今宵の【Bar Siva】はボーイのサトシがいつもより早めに開店準備を済ませて

 

オーナーママであるリリーが来るのを待ちわびていた。

 

と言うのも先週末に開かれた『宇宙人会』での会話がサトシにとっては謎だらけで

 

翌日に質問しようと思っていたら定休日。

 

待ちきれずにリリーの行きつけの店でもあり、

 

宇宙人の1人であるルルコのカフェに行こうかと考えたが、定休日が同じである事を知ったのだ。

 

行き場のないサトシの頭の中のハテナの数々を

 

休みの間に紙に書き出して聞き逃しがない様に準備万端にしてある。

 

聞きたい事をスムーズに伝えないと予約の人が来る前に話が終わらないかもしれない。

 

サトシがソワソワしていたらお店のドアが開いた。

 

「おはよう」

 

リリーが颯爽と入って来た。

 

「おはようございます」

 

サトシは満面の笑みと最上級の爽やかさで挨拶をした。

 

リリーはコートを脱いでタバコケースとスマホを持ち

 

定位置のカウンターの中に立った。

 

ルーティンのようなものである瞑想をするはずだ。

 

サトシは心得ているので他の作業をしながら

 

リリーのタイミングを待つつもりだったが

 

いきなりリリーが

 

「何か聞きたいことがあるんでしょ?」

 

と言って来たので、さすがのサトシも面食らった。

 

「あっ、あー、え?わかりました?」

 

心の準備も出来ずにプチパニックである。

 

リリーはタバコに火をつけて煙をゆっくり吐き出しながら言う。

 

「質問まとめてるなら端的にね」

 

サトシはパニックのまま質問リストの1番に書いたことを思い出しながら

 

「ママとあの宇宙人会の人たちは前世とかあの世とかでも一緒だったのでしょうか?」

 

何とか質問した。

 

リリーはタバコを右手の人差し指と中指で挟んでいる掌に顎を乗せてカウンターに肘をついている。

 

目線は斜め上を見ながら口を開いた。

 

「そうね。あの世の公務員ではなくて違う星の意識体の2人なの。

 

前世の絡みの映像もキャッチしてないけど、何か深い意味があるのは間違い無いわ。

 

ルルコはソウルメイトだと思うし、彼女と出逢えたからこそ

 

私は今世を思いっきり満喫することが出来るの」

 

「そ、そうなんですか?前世の絡みもないのに今世で出逢うことあるのですか?」

 

サトシは少し落ち着いて質問した。

 

「あるわよ。千ちゃんは本当に宇宙人過ぎるから前世の記憶とか関係ないけど、ルルコは何度も繰り返される同じ映像をキャッチするわよ」

 

「同じ映像をキャッチ?」

 

「そう…ルルコの前世は隠れキリシタンだったの。

 

暗い洞窟で正座をさせられて大きな長方形の岩を膝の上に乗せられて罰を受けたの。

 

その映像を何度も受け取るし

 

ルルコ本人も記憶の自覚があるみたいよ」

 

リリーは切なそうな声のトーンで話した。

 

サトシは大きな目を更に大きく開いて前のめりに質問を重ねてくる。

 

「ルルコ様にも記憶があるのですか?」

 

「そうみたい。正座で石を乗せられて罰を受けたって記憶があるみたいよ」

 

リリーはタバコを吸いながら答えた。

 

「その記憶の意味は何なのでしょうか?」

 

「メッセージがあるか?それを受け止めれるのは本人だけよ。

 

もちろん、必要とあらばね」

 

「必要ないのにメッセージが来ることあるのでしょうか?」

 

「そうね…ほとんど無いと思うわ。

 

ルルコは前世で自分の信じてるものを口にする事が出来なかったから

 

今世では、好きなものは好きって言えることの素晴らしさを実感してると思うわ。

 

もちろん、嫌いなことは嫌いとも…」

 

「なるほど。ルルコ様が好きなものをハッキリ仰るのは前世に関係していたのですね」

 

サトシの言葉にリリーは小刻みに数回頷きながらタバコを消した。

 

サトシは続けて質問をする。

 

「ママは半分、あの世に置いて来てるのですか?」

 

新しいタバコを左手に、お気に入りのスリムでゴールドのガスライターを右手に持ったままでリリーが答える。

 

「半分置いて来てるって言うよりも意識体が向こうへ行ったり来たりしてるイメージなのよ。

 

何となく伝わるかしら?」

 

サトシは真剣な顔で頷く。

リリーは続けて話す。

 

「だから、あの世で何をしてるかは記憶がないの。向こうへ行った後はやたらと眠いから何となく、行って来たのねって感じよ」

 

「き、記憶ないのですか?」

 

「無いわ。基本的には…」

 

「ではある時もあるのですか?」

 

サトシが真顔でややこしいことを質問した。

 

「記憶ってより夢の中で覚えてる感じよ」

 

リリーは答えるとやっと新しいタバコに火をつけて続けた。

 

「サトシ、質問は良いけど今からお客さん来るし喉も渇いたわ」

 

はっとしたサトシは声も出せず小さく頷くと厨房へ飛んで入った。

 

マッハでビールを注いでリリーの前に持って来た。

 

「申し訳ありませんでした。

 

またお時間がある時に掘り下げて質問させてください。

 

よろしくお願いします」

 

リリーはビールを受け取ると笑顔で

 

「またいつでも聞いてね」

 

とウインクをした後に喉を鳴らしてビールを呑んだ。

 

それからリリーはタバコを燻らしながら静かに目を瞑った…

 

今宵はココまで…