第60話ーベルと父親

今宵の【Bar Siva】はお休み。

 

訳あって長期の休みになるのでボーイのサトシとオーナーママのリリーはお店の片付けをしていた。

 

「この際だから軽く模様替えでもしてみるのも良いかもね」

 

リリーの突飛な発言から大掃除と断捨離が決定してライティングを変える話も出た。

 

まずは整理整頓ということで今日の作業になったわけだ。

 

出来るボーイのサトシは嫌な顔1つせずに率先して色々なものを整理していく。

 

「ママ、この辺の台帳もパソコンのデータ入力してあるものは破棄しますか?」

 

「そうね。ペーパーレスの時代だから必要ないものは処分、破棄、略すのに良い機会だわね。

それでお願いするわ」

 

リリーは的確に答えると棚の下に置いてあった写真の入った箱を取り出した。

 

蓋を開けると懐かしい顔ぶれが瞳に飛び込んできた。

 

その1番上に前の旦那さんの写真があって、リリーは半笑いになった。

 

その様子を敏感に気がつくサトシが口を開いた。

 

「ママ、面白い写真ですか?」

 

「えっ?あ、まぁね。ベル父の写真。開けて1番上にあったから…

つい笑えたの」

 

その写真をサトシへ見せながらリリーが答えた。

 

写真を覗き込む様に見て

 

「いつ見てもベルさんに似てますよね」

 

サトシも笑みがこぼれていた。

 

「写真って処分しにくいわよね」

 

リリーがもう1度写真を見ながら言った。

 

サトシは自分の作業に戻って手を動かしながら答える。

 

「今からベルさん来られるんですよね?

 

ベルさん本人に聞いてみてはどうでしょうか?」

 

「確かに」

 

そういうとリリーはベル父親の写真だけ区分けし始めた。

 

手を動かしながらサトシの心の声が聞こえる。

 

『こ、こんなチャンスは2度とないかもしれない。

 

聞くなら今しかない。

 

がんばれ僕…』

 

少しぎこちなく感じる空気を醸し出しながらサトシが口を開いた。

 

「マ、ママ、ベルさんのお父さんとのカルマってあったのですか?」

 

『い、言えた僕…』

 

聞いたのは良いがリリーの顔を見れない…

 

リリーはぎこちない空気もお構いなく自分のテンポで話し出す。

 

「話せば長いわね」

 

「お嫌でなければ、よろしくお願いします」

 

サトシ、がんばった。

 

「そうね。

 

あの人とは前世の絡みがあるの。

 

前にも話したと思うけど、ただあの人の子供を産みたかったの。

 

前世はね、江戸時代だと思う。

 

着物姿の私とあの人が見える…」

 

ゆっくりと話し出すリリーはタバコに火をつけた。

 

そして目を閉じて、その先に映る前世の映像を見る。

 

まるで繰り返し見ているお気に入りのDVDを再生させるかのよう…

 

そこに映し出される映像を見ながらリリーが口を開く。

 

「あの人はね。私を身請けしてくれたの。

 

お金が無くて親に売られた私をとても可愛がってくれて、最後には高値で買ってくれたのよ。

 

私を箱から出してくれて普通の幸せをくれようとしたの」

 

サトシは作業の手を止めて真っ直ぐにリリーを見つめていた。

 

何も言えない。

 

黙ったままリリーの声を聞いた。

 

「私は幸せだった。

 

普通に夫婦として生活していることが本当に幸せだったの。

 

そんなある日、私は赤ちゃんを身ごもったの。

 

あの人はとっても喜んでくれて、私も心底嬉しくて…」

 

サトシは黙って何回もうなずく。

リリーはタバコを燻らしながら続ける。

 

「お腹は順調に育っていって8ヶ月を超えた頃に事故にあったの。

 

後ろから私は妊婦とは分からなかったのかもしれない。

 

急いでる人に押されて転倒して…

 

そこからは記憶がないの」

 

サトシは左手で自分の口を覆った。

大きな瞳には涙が一挙に溜まって、ポロポロとこぼれ出した。

 

「な、亡くなったのですか?」

 

やっとの思いで聞いた。

 

リリーの瞳にも涙が溜まっていた…

「そうね。苦しんでる映像とあの人が泣き叫んでくれた映像、その次は土の中で赤ちゃんと眠ってる自分が見えたわ」

 

リリーは天井を見上げたが涙が頬をつたった。

 

「だから今世では産みたかったのよ」

 

サトシは涙を拭いながら

 

「良かったです。

逢えて、産まれて良かったです」

 

そう言うとタオルに顔をうずめて泣き出した。

 

この状況の中、店のドアが思いっきり開いた。

 

「こんにちは。

 

って何かタイミング悪かったかな?」

 

入ってくるなりキョトンとしたベルが立っていた。

 

リリーは笑顔で

 

「タイミング最高だと思うけど」

 

って言うと大声で笑った。

 

今宵はココまで…