第61話ーベルの使命

今宵の【Bar Siva】は長期の休みもあって模様替えと断捨離の真っ最中。

 

出来るボーイのサトシがオーナーママのリリーの前世の記憶のお話を頑張って聞き出しているところへ、

話の渦中である娘のベルが飛び込んで来たところの続きになる…

 

お店のドアを勢いよく開けて入って来たベルは

 

「こんにちは。

 

何かタイミング悪かったかな?」

 

と言いながらカウンターの前に来た。

 

リリーは

 

「タイミング最高だと思うけど」

 

って笑った後に続けた。

 

「ここに父さんの写真があるのだけど見て必要ないものは捨てるから選んでくれないかしら?

 

1枚も要らないならそれでも構わないから」

 

リリーは話ながら区分したベルの父の写真を渡した。

 

「父さんの写真?

 

別にスマホにあるし要らないけど…

 

写真って捨てにくいよね」

 

ベルは写真をめくり見ながら低いトーンの声で言った。

 

サトシは2人のやり取りを見ながら少し前に聞いたばかりのリリーの前世の話と現世の因果関係が気になって仕方なかった。

 

紙ベースの処分対象のファイルをシュレッダーにかけながら気になっていることを聞いてみる決意をした。

 

「ゴホッ、うっううん…」

 

サトシは喉の調子を整えてから口を開いた。

 

「ベルさん、ご無沙汰してます。

 

ベルさんが来られる前にママと前世の話をしていて、ベルさんのお父様とのカルマも聞いたばかりなんです」

 

ベルが眼鏡越しに上目遣いの視線でサトシを黙ったまま見た。

 

サトシはベルの瞳を真っ直ぐ見つめたまま話を続ける。

 

「ベルさんは前世の記憶とかあるのでしょうか?」

 

ベルは口だけ動かして

 

「いいえ、その時の記憶はないわ」

 

と答えた。

 

サトシは頑張る。

 

「その時以外の記憶はあるのでしょうか?」

 

「うーん。それが前世の記憶かは分からないけど不思議なことは多々あるけど」

 

「例えば、どんなことがあるのでしょうか?」

 

「行ったこともないのに懐かしく思えたり…

 

知らないはずなのに知ってるかもって思ったり…

 

そんなところかな」

 

ベルは答えた後に写真に視線を戻した。

 

サトシはシュレッダーの作業をしながら聞きたい好奇心を抑えずに続ける。

 

「ママはベルさんを産んだことによりミッションは終了なのですか?」

 

棚の整理をしていたリリーがサトシの方に振り向いた。

 

即座にタバコに火をつけた後にゆっくりと質問に答える。

 

「そうね。後はベルさんが巣立ってくれたら現世の任務は終了ね。

 

後はこの世界でしか楽しめないことを満喫して帰るわ」

 

「あと数年でベルさんは独立扱いになりますよね?

 

そうすると次は何をするとかあるのでしょうか?」

 

リリーはタバコを深く吸い込んで、ゆっくり吐く。

 

少しの間があってから口を開いた。

 

「この世に後悔がない様に笑って帰れる様に楽しむつもりよ。

 

今でも充分楽しいけどね」

 

「母さんは、いつだって楽しそうに見えるけど」

 

ベルさんが普通に話に入って来た。

 

「でしょう?私は毎日気分良く過ごすために努力してますもん」

 

リリーは笑顔でタバコを深く吸い込み煙を真っ直ぐ上へ向いて吐き出した。

 

今宵のサトシは頑張る男だ。

 

手を止めずに質問を投げる。

 

「ママはこの世を楽しむとして、ベルさんの使命は何かわかってるのでしょうか?」

 

リリーがタバコを持っている手を小さく左右に揺らして煙をユラユラ昇らせながら

 

「ここからはベルさん自身のことだからね。どうなの、ベルさん」

 

煙越しにベルを見る。

 

ベルは父親の写真をパラパラとめくりながら視線を落としたままで答えた。

 

「さぁ、私にはそんなこと分からないし考えたこともないけど、やりたい事は何もないわね」

 

子供なのか大人なのか判断しかねる声のトーンだ。

 

リリーは動かしていた手をピタッと止めて

 

「そうなのね。それは今から見つけられる楽しみがあるって事ね」

 

と言って両肩を軽く上へ動かし弾ませた。

そしてお構いなしにリリーは続ける。

 

「私もベルさんの年齢の時には色々あったのよ。

 

だって全財産を持って自分の母親が若い男と駆け落ちする事件があったしね。

 

チカラのコントロールが出来なくて生きてないものや生きてる人の感情だったりに悩まされてたし…

 

同級生に気持ち悪がられてイジメられたのもあったわ。

 

私がなぜ生まれて来たのかの記憶が甦るのは20歳をこえてからよ。

 

しかも徐々にね。

 

だから自分の使命が分からなくて普通よ」

 

話し終えたリリーをベルは眼鏡越しにチラッと見て手に持っていた写真の束をカウンターへドサっと置いて言った。

 

「全部処分で」

 

満面の笑みのベルの顔を目の玉が飛び出してしまうほど見開いた驚きの顔のサトシが見てる。

 

それを見たリリーとベルは大声で笑った。

 

店内に大きく響き渡る笑い声の中でベルが

 

「早く済ませてサトシさんも一緒に食事に行こう」

 

と明るく誘った。

 

今宵はココまで…