第4話ー家にいる生きていない人

お店の看板を点けると同時にドアが開いた。



「ようこそ。こちらに座って。ご予約の方かしら?」


リリーはいつもと変わらず黒の服装にきらびやかなネイル、

妖艶な雰囲気を漂わせ、ハスキーボイスで聞いた。



「はい。予約していた四ッ谷です。よろしくお願いします」
華奢なその女性は軽やかな声で答えた。


「お飲み物は何にします?」
リリーはカジュアルに聞いた。



「生ビールありますか?ビール飲みたいです」
お酒が似合いそうにない四ッ谷が注文した。

リリーはボーイのサトシに目配せをして
「私もビールいただいても構わないかしら?」
四ッ谷の返事を待たずにサトシへ合図した。

四ッ谷は
「どうぞ。一緒に乾杯して下さい。

きっと私の悩みは今日で解決されるから、記念の乾杯ですね」
と明るい声で言った。



リリーは
「で、あなたの家にいる生きていない人の話かしら?」
いきなり聞いた。



四ッ谷は驚きもせず
「はい。そうなんです。

いろんなこと邪魔されてるんですが、憎めないし、

どうしてあげたらいいのかと考えちゃって…」
顎に手を当てながら首を傾げた。


「あなたは、どこまで見えてるの?」
リリーがたずねた。



「ハッキリとは見えません。

でも、なんとなく感覚で解ります。

怖いって思うこともありますが、今、家にいる人は全く怖くありません。

むしろ、懐かれている感じがします」


四ッ谷は可愛らしい声で淡々と答えた。

サトシがビールを運んできた。
リリーと四ッ谷はグラスを持ち
「乾杯」


軽く会釈をしてビールを飲む。


リリーは1口飲んだ後
「そこまで見えてても彼がどうしたいのかは分からないわよね・・・」


四ッ谷はビールをグラスの半分まで一気に飲み
「ふぅー。私、結婚が決まっていて引っ越す予定なんです。

その時、どうなるのかな?っていうのと、

付いて来てもなぁって思うので、どうしたらいいのかな?って、

リリーさんのことを知り合いに教えてもらったので来ました」


答えると又ビールを飲む。



リリーはグラスを置くと目を閉じて


「う〜ん… 

彼はバイクの事故で亡くなったみたいだけど、

あなたの家の近所じゃないわね。

あなたが事故現場を通った時に、周波数が合って連れて帰っちゃったってところね」


言い終わるとリリーは目を開けた。



「私、なんとなくその事故現場、心当たりあります。

あそこを通ってから私の家に来た気がします」


四ッ谷は平然と話した。



「連れて帰った場所が分かったとしても彼は帰ってくれないわね…

成仏してもらうとして、彼は心残りがあるから彷徨ってるってことよね。

でも… それを叶えてあげるのは難しいわ」
リリーは珍しく答えに悩んでいた。



「んーー…考えられるパターンは、いくつかあるけど…

大きく分けて3つね。

強制的に成仏してもらうか、案内所に連れて行く。

もしくは何もしないで、そのままにしておく。

じきに離れると思うわよ」
リリーが提案した。


四ッ谷はビールを飲み干して
「おかわりください」


グラスをサトシに見せながら注文して、リリーに質問した。
「案内所に連れて行くって、どういうことでしょうか?」


「この世を彷徨ってる人たちの案内所のことよ。

事故で突然死して、自分が亡くなったことを理解出来ないでいる人や、

心残りがあってお迎えを見失った人、

そういう人たちの話を聞いて導いてくれる場所」



「へぇー。そんなところがあるんですね。この近くにありますか?」
四ッ谷が興味津々にきいた。



「あるわよ。鶴田神社。

わかる?あそこは無駄に磁場が良いのよ〜」


リリーは長い髪を耳にかけながら続けた。


「ただ問題があるわよね。

事故死してる彼は普段は、あなたの家にいるでしょ?

一緒に出回らないわよね。

そこに連れて行くとしたら、付いてきてもらわなきゃいけないわよね…」



「ついて来てって言えばついて来てくれるでしょうか?」
四ッ谷が新しいビールを受け取りながら言った。



「ついて来てって言ってついて来るかしら?…」


リリーは腕組みをして続けた


「んーー… やってみる価値はあると思うわ。

あなたもついて来てるかくらいは感じるでしょう?」



四ッ谷は真っ直ぐにリリーを見つめて言った。
「やってみて、もしダメならほっとくしかないですか?」

リリーは見つめ返しながら話した。
「ついて来ると思うわよ。

でも、もしダメな時は部屋の窓を全て開けて、

玄関も開けて換気しながら四角に盛り塩を置いていってみて。

お部屋から無理矢理追い出す状態ね。

そうなると外に出るから、ついて来やすくなると思うわよ」


「よし!やってみます。

私じゃ彼の願いは聞いてあげれないけど、そこへ連れて行けば何とかなりそうですもんね。

そうすれば、私も何も気にせずにお嫁に行けます」


四ッ谷は晴れ晴れした顔つきになった。



「やることが見えたので良かったです。

私、これ呑んだら帰ります。

リリーさん、ありがとうございます。

どうなったかはメールで報告させていただきます」


四ッ谷はそう言うと、やっと本当の笑顔になった。