第5話ー子どもができない家

今日も【Bar Siva】にはオーナーママのリリーが

独特の雰囲気とオーラをまといカウンターの中で佇んでいる。


リリーはタバコに火をつけて大きく息を吸った。

タバコの煙がユラユラとくねりながら昇っていくのを微笑んだ顔で見つめている。


そこへボーイのサトシが声をかけた。

「ママ、後5分で定刻です。先に呑まれますか?」


リリーはタバコを吸いながら答えた。

「さすがね〜いただくわ」

リリーには今から来る予約の人が何を聞きたくてくるのか解っていた。

おおよそ、誰の予約の時も大まかには解っているのだ。


予約の連絡の時に、何もしてあげれない案件の時には断ることにしている。

というよりも相手の都合が悪くなることが普通だ。

このケースには2通りある。

この話は・・・また、別の機会で・・・


今日の予約の人は・・・

知っている女性だ。

前にも占ったことが数回ある。

今日の内容は・・・


リリーはサトシが運んできたビールに口をつけた。

タバコもビールも今日も美味しい。

正確に言うと、見えない雑音から気が紛れて嬉しい・・・かな?


サトシが厨房から大きめの声で言った。

「時間なので看板点けます」

それと同時に店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

サトシが店のドアに付いている鐘の音が鳴るのを聞いて反射的に言った。


リリーは満面の笑みで

「ようこそ〜。ご無沙汰ね。元気にしてたのかしら?・・・座って」

と席へ促した。


入ってきた女性も満面の笑みで

「ご無沙汰しております。お逢い出来て嬉しいです」

と言いながらリリーに勧められた席へと座った。


「今日は呑めるの?」

リリーがきいた。

「車で来ちゃったので呑めないんです。ジンジャエールお願い出来ますか?

リリーさんは私の分も呑んでくださいね」

その女性、岡田は答えた。


リリーはサトシに目配せをした後、単刀直入にきいた。

「で、今日は何かしら?」


岡田は、タオル地のハンカチを握り締めながら話し始めた。

「結婚して3年が経ってから、そろそろ子供が欲しいって話を旦那と話したんです。

もともと私たち、避妊はしてないんです。

それで妊娠しないのは何か原因があるかもしれないと思って、病院へ検査に行きました」


リリーは黙ったまま頷きながら聞いていた。

岡田は続けて

「その検査結果を先週聞きに行きました。

結果は異常なしでした…

2人とも健康で問題ないと言われたんです。

なのに妊娠しないって、相性が悪いとか、そんなことでしょうか?

病院では不妊治療を考えてみてはと言われました。

私は妊娠出来るでしょうか?」

視線をカウンターに落としたままで、リリーの答えを待った。


「妊娠?・・・出来るわよ」

リリーがアッサリ答えた。


岡田は顔を上げてリリーを見た。

「ほ・・・ほ、ほんとうですか?」


「本当よ!ただし、今、住んでる家じゃ、子宝に恵まれないわ

リリーは新しいタバコに火をつけながら言った。


岡田は首を傾げながら

「今の家がダメってことなんでしょうか?」

と言った。


リリーは、ゆっくり煙を吐き出した後に続けた。

「今の家で子作りしても着手しないわ」

「ちゃ、ちゃくしゅ?」

ジンジャエールを運んできたサトシが裏返った声で言った。


リリーにチラッと見られてサトシは

「す、すみません。話を割ってしまいました」

即座に謝った。


「どういうことでしょうか?」

岡田はストローでジンジャエールをかき混ぜながら質問した。


「つまり、わかりやすく言うと〜、

今の家で子作りの行為をしても妊娠しないってことよ。

だから、違う場所で子作りしてみたら?

案外すぐに妊婦になるわよ」

リリーはそう言った後に満面の笑みを浮かべる。


「家以外ってことは、ホテルってことですよね?」

岡田がきいた。


リリーはビールを飲みながら頷いた。


「だとしたら、良い方向とか日にちとか何かありますか?」

続けて岡田がきいた。


リリーは空のグラスをサトシに向けて上げて答えた。

「そうね・・・日にちは関係ないわ。

いつでも良いと思うけど、方向は西…

西の方がリラックス出来るって感じるけど、何か予定あるのかしら?」


岡田は少し驚いた表情で言った。

「リリーさん、さすがです!

今度、夫と旅行いく話になってます。

この前の検査のこととかで、モヤモヤした気持ちを切り替えようっていうのと、

子供が出来たら、しばらくは旅行なんて無理かもしれないのでって話をしたんです。」


「へぇ〜。良いんじゃない?で、どこ行くの?」


「まだ決めてないんですが、海外にしようと思ってたんです。

西となると、どこがいいでしょうか?」

岡田は西方面を思い出そうとしながら質問した。


リリーも、一瞬考えて

「香港とか、上海とかになるのかしら?後、インドとかも西?」

ビールを運んで来ているサトシに向けて言った。

サトシはビールを渡しながら答える。

「そうですね。どこまでが西なんですかね…」


岡田が

「韓国じゃ西にならないでしょうか?」

少し大きめの声で言った。


「いいんじゃないかしら?韓国、

焼肉食べて、買い物して、やる事やってきたら?」

リリーが新しいビールのグラスを手に持ち、岡田のジンジャエールのグラスへ乾杯しながら続けた。


「かんぱ〜い。妊娠確定おめでとう!」

・・・


岡田から嬉しい報告があったのは

それから半年も経たない夜でした。