第6話ー旦那乗り換えプラン
香水の匂いを振り撒く様に、その女は店へ入って来た。
「いらっしゃいませ」
ボーイのサトシが迎え入れる。
カウンターに座った、その女は山田と名乗った。
今夜の1番目の予約の人だ。
厨房からリリーが出てきて
「ようこそ〜何を飲まれますか?」
笑顔で尋ねた。
「生ビールお願いします」
山田は続けて
「リリーさんですよね?リリーさんも飲まれますか?ご一緒にどうぞ」
と手を差し出した。
リリーは笑顔のままで
「ありがとうございます。私もビールいただきます」
話しながらサトシに合図を送った。
「で、何を知りたいのかしら?」
リリーが本題に入った。
山田は真っ直ぐにリリーを見つめて話し始めた。
「私、もう家庭を卒業してもいいかな?って思うんです。
子供たちも大きくなって社会人だし、主人とは男女の関係なんて何年もありません。別れて自由になってもいいと思うんです。リリーさん、どう思いますか?」
リリーは真っ直ぐ見つめ返したまま
「それって私の意見いらなくないですか?」
低い声で答えた。
リリーは続けて
「しかも、それ、本題じゃないですよね?」
ときいた。
山田は目をパチクリさせて
「どういう意味でしょうか?」
と質問した。
リリーは見つめたまま
「本当は、今お付き合いしている彼のことを聞きたいのではないの?」
核心をついた。
山田は少し上擦った声で
「えっ?!そ、そんなこと・・・言ってませんけど、何で、付き合ってる人がいるとか言うんですか?」
しどろもどろに言う。
そこにサトシがビールを運んできた。
リリーは、グラスを右手に持ち
「乾杯しましょう。そして、ここでは嘘、偽りは必要ないわ」
山田が持つグラスへ向かって
「乾杯!」
って言った後に一気にビールを呑む。
「はぁー。美味しい!・・・で、実際のところはどうなのかしら?」
リリーが前のめりに聞いた。
山田は諦めた様子で
「いるわよ彼氏。私、いつも彼氏いるけど、家のことも、ちゃんとやってるし、主人にバレたこともないわ。主人は私が外で何やってても気にならないのよ。だから、いつものこと!」
淡々と最後は少し強めの声で言った。
「だけど今回は違うって思ってるから来たんでしょ?」
リリーは、そう言った後にビールを飲み干した。
「どこまで見えるの?」
山田は横目で見ながら言った。
「ビールおかわりいいかしら?」
リリーはマイペースに答える。
「どうぞ。いくらでも呑んで。断りはいらないから質問に答えて」
山田は開き直って言った。
リリーはサトシに空のグラスを差し出した後に答えた。
「どこまでって質問の意味が分からないけど、とにかく、あなたが今の彼氏と一緒に居たいのは伝わるわよ。ご主人と別れて一緒になりたいんでしょ?」
山田は再び目をパチクリさせて
「彼と一緒になりたいの。主人とは別れて彼と一緒なりたいのよ!私はそうしたいの。ダメなのかしら?」
せわしなく話す。
リリーは視線を落としてまま
「不倫相手の男性の気持ちは無視なのかしら?・・・それとも、彼がご主人と別れて一緒になって欲しいって言ったの?」
少し低いトーンで言った。
山田はウキウキした声で
「何も決まってません!彼が結婚してくれるなら主人と即座に別れたいと思ったんです。彼が結婚してくれるかを知りたくてココに来ました」
少し早口で言った。
リリーは呆れた声で
「ないわ・・・それは無理だと思わないの?だって、今の彼氏って、かなり若い相手よね?」
眉間にシワを寄せてきいた。
山田は悪びれた様子も全くなく
「かなり若いですけど、とってもラブラブなんです。何か問題でもありますか?」
屈託のない笑顔でリリーを見る。
「そんな自信があるんなら、彼に直接聞けば良くない?ここに来て彼の気持ちを探る必要あるのかしら?一回り以上若い彼が結婚するかどうかなんて、あなたの中にも答えはあるのでは?」
リリーはうんざりしながら言った後に続けた。
「あなた、今、何歳?50超えてるわよね?彼と再婚出来たとして、彼の遺伝子を残すのは難しいわよ。彼が子供好きなのを知ってて、その考えなの?」
山田は少し口を尖らせる話し方で話した。
「それの何がいけないのかしら?子供を産むのが全てじゃないじゃない?」
リリーは下を向いて深呼吸した。
それから、顔を上げて山田を見て話した。
「単刀直入に答えるわ。あなたがご主人と離婚して彼と結婚するのは無理だわ。あなたはご主人に感謝もなければ誠意もない。そんな人が離婚して他の人に受け入れてもらえると本気で思ってますか?・・・あなたも薄々感じてるからココに来たのですよね?」
山田は目線を下げて黙った。
リリーは続けて
「もっと、ご主人を大切に出来ないのかしら?とっても優しくて家族想いで良い人じゃない。何が不満なの?あなたが浮気したり、遊んだりしても片目を瞑ってくれてる人よ!何が不満なのか全く分からないわ。あなたの本心は、どう思ってるの?」
淡々と話した。
山田は目線を下げたまま
「はぁー。やっぱりそうなの?・・・でも、私って凄くモテるのよ。彼氏途切れたことないし、寝たい男とは相手が若くても寝れて来れたの。それだけ私が魅力的ってことでしょ?主人とは寝るのも嫌だけど、それに関して困ったことは1度もないのよ!それは私だからよね?今の彼とも体の相性は良いと思うし、彼は私にハマってると思うの。だから私と別れるのが嫌なはずよ」
相槌を入れる間も与えない様に話した。
リリーは柔らかい声で
「ねぇ〜。わかってるんでしょ?本当は・・・認めた方がが楽よ・・・あなたが1番ほんとは分かってるじゃない・・・結論から言うわ。あなたはご主人から今の彼には乗り換えれません。無理よ!ご主人を大切にすることが老後の安定ね・・・」
優しく話した。
山田は両手で顔を覆ったまま
「やっぱり、そうなの?・・・そうなのね」
心の底から言った。
山田はキッと顔をあげてリリーを見て
「そうかもしれないけど言わなきゃ気が済まないから、彼に詰め寄ってみて、ダメなら諦めるわ」
とたくましい声で言った。
リリーは新しいビールのグラスを片手に
「告白するのも何するのも、あなたの人生だから止めないけど、ご主人は大切にね〜。この結末の報告はいらないわ。とにかく、乾杯〜」
苦笑いの延長戦の微笑みで乾杯した後にビールに口をつけた。
言うまでもなく、彼女は浮気しながらも現在もご主人と暮らしています。
めでたし?めでたし?
・・・
山田は知らない。
・・・
ご主人の心の拠り所の相手が居ることを・・・
・・・
