第9話ー別居中の妻に愛され過ぎて

今夜の予約は馴染み客である。

 

会うのは久しぶりで、リリーは少し浮かれていた。

というのも、リリーは今から来る三浜という男が出逢った時から興味深い対象だからである。

 

なぜなら、いつも不思議なことに巻き込まれている男性なのだ。

 

リリーは三浜に出逢った頃を思い出していた。

 

あれはもう5年前…

店に来たときに「団体で」入ってきた。

三浜と霊体の女性7人。

しかも、生き霊で、全部同じ人が違う形になっているという特殊な状態だ。

リリーは、その珍しい光景に目を奪われ、三浜には申し訳ないが、じっくり観察した。

 

この女性の愛情?

いや、執着?

 

怖さもあるが、一方通行の愛情に切なくもなる。

三浜は、それほど愛されているという事だ。

 

その女性は、三浜の奥様である。

 

現在、目と鼻の先の距離での別居生活中だ。

三浜は離婚を何年も前から申し出ている。

奥様は頑なに拒否している。

 

そんな状況でリリーの店へ三浜は、やって来た。

団体様で…

 

三浜は妻と離婚して新しい人生を踏み出したいと願っていた。

好きな女性というか、深い関係の若い女性の存在も

彼の離婚への意欲に繋がっていた。

 

しかし、妻もそれを感じているからこそ離婚を、のらりくらり…受け流す。

無駄なこととは分かっているのだ。

 

分かった上でモヤモヤが消えないからこそ、認められないという負のスパイラルに陥っている。

 

リリーは、そこで7体、全員に強制送還してもらうことにした。

妻へ意識を返す、もしくは消えてもらうのだ。

 

それをした途端、三浜は声が出た。

「えっ?軽くなったんですけど?

何ですか?えー?」

リリーはニッコリ微笑んで

「生き霊だから、きっと又すぐに戻ってくると思うわ。

と言うより、新しく生き霊を憑けられるわ」

と楽しそうに言った。

 

案の定、三浜は次の日には体の異変を感じ、連絡をして来た。

リリーは奥様のガッツの良さに楽しくなった。

 

愛情の表現が行き過ぎるパターンでもあり、不器用な奥様に同情も多少はある。

 

それ以上に、彼女には、執着を捨てて幸せになって欲しいという願いが本音である。

 

リリーは出張鑑定は、ほとんど受けない。

と言うよりも、店の中で済ませれることが大半だ。

 

ただ、このケースは、リリーの興味もあるがゆえに出張を申し出た。

三浜の家に訪問したのだ。

しかも、リリーの末娘を連れて。

 

それは何故か?

 

リリーの末娘は、エネルギーの塊である。

そして、その場の空気の除去や結界を貼ってしまう性質である。

 

単に、リリーが末娘を連れて行く事で本人がエネルギーをほぼ使わずに済むというだけの事である。

 

しかし、末娘の威力は凄まじい。

何も分からず無邪気に三浜の家の隅々を走り回り、空間クリーン活動を成し遂げてしまうのだ。

 

クリーン活動を終了して、リリーが結界を貼る。

 

以上終わり。

 

綺麗な空間で快適に過ごせる様になるのだ。

 

そう、その清掃活動後に、離婚が成立する運びになった。

 

三浜は晴れて独身となり、シングルファーザーとなって奮闘するのだが、それも遠い昔に感じる。

 

三浜は【恋愛体質】だ。

 

次から次に、今回が最後の恋と言わんばかりに目の前に集中した恋愛をする。

しかも、リリーの忠告を一切聞かない。

そして、ボロボロになると、連絡をしてくるのだ。

 

三浜と同様の【恋愛体質】の女性もいるのだが、その話はまた後日。

 

今夜は、どんな相談なのか?

リリーには、ほとんど分かっているのだか、三浜の顔を見るのが楽しみなのだ。

 

ボーイのサトシがビールを持ってきて言った。

「ママ、楽しそうですね〜。もうそろそろですか?三浜様の来店。

今回は、どの様なお話なんでしょうか?

僕も楽しみと言っては失礼ですが、楽しみなんです」

 

リリーは、ビールを呑みながら笑みがこぼれていた。

 

その時、お店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ〜」

サトシが明るく嬉しそうに言った。

「ご無沙汰しております。何を飲まれますか?」

サトシは笑顔できいた。

 

三浜は軽やかなトーンで

「お久しぶりでーす。賀茂泉の冷酒ください。

もちろん、リリーさん、浴びるほど呑んでください。サトシ君も呑んで」

喋りながら、リリーの前の席に座った。

 

リリーは屈託のない笑顔で

「三浜、元気そうだね。今回は何?」

フレンドリーに言った。

 

三浜は

「いやいやいやいや、リリーさん、

そう言いながら本当は既に分かってるんでしょ?

俺、1ヶ月も彼女出来ないんですよ〜。彼女、欲しいんです。運命の出会いありますか?」

軽やかに言った。

 

リリーは笑いながら答える。

「まだ1ヶ月でしょ?運命の出会いって何?毎回そう言うでしょ〜」

「それほど毎回、俺は本気なんです」

三浜が真顔で言った。

 

リリーは一瞬固まった後に

「マジ、ごめーん」

って言った後に大笑いを数分に渡り続けた。

三浜は

「ま、毎度って感じでいいんすけどね〜」

と言ってサトシの運んできた冷酒を受け取り、3人で乾杯した。

 

リリーは乾杯したビールを一気に半分呑み干すと

「あーーーーー。今日もビールが美味しいわ。三浜、今、好きな子いるでしょ?」

唐突に切り出した。

 

三浜は目をギョロリとさせながらリリーを見て

「わかります?」

と、いたずらっ子の顔をした。

 

リリーはタバコに火をつけながら答えた。

「わかるに決まってるし、その娘、無理よぉ。気付いてると思うけど」

 

「相変わらず、バッサリですね〜。リリーさん、望み0ですか?」

三浜は慣れた対応で質問する。

 

「残念だけど…0ね。って私が言っても納得するまでアプローチするんでしょ?

何で私に聞くの?言うことも聞かないのに意味なくない?」

リリーは少し早口で答えた。

 

「ですね〜。

リリーさんに聞いた上で、それでも頑張ってみて、ダメだったら本当に諦めがつくんです。

結局、諦め悪い男ってだけなんですよね」

三浜が髭を触りながら話した。

 

「ま、いいんじゃない?それが三浜らしくて」

リリーは言った後にゲラゲラ笑った。

・・・

三浜のケースは他にもあるので、それは又、改めて…


☆三浜のその後の話は⇒ 幻の独身(第25話)