第17話ー勧誘

リリーは、いつもの様にタバコを吸いながら瞑想をしていた。

 

瞑想と言っても、この時間に無にはなれない。

 

今から来る人が何を求めてくるのか?

情報が勝手に流れてくるのだ。

 

なぜ?

 

そう聞かれても答えようがない。

 

それがスタンダードなのだ。

 

物心ついた時には、それが当たり前で、それが普通であり、日常なのだ。

 

今夜、今から来る人は・・・

 

占いでは無さそうだ。

 

ある意味、言葉が通じるか不安だが仕方ない。

 

そう思いながらタバコを消した時、お店のドアが開いた。

 

「いらっしゃいませ〜」

ボーイのサトシが厨房から出て来て言った。

 

「ようこそ。こちらに座ってくださいませ」

右手でカウンターの椅子を指しながら、リリーが言った。

 

「初めまして。私、平原と申します。よろしくお願いします」

そう言いながら名刺を出した。

 

リリーは微笑んだまま受け取った。

名刺を見て

「やっぱりね〜」

平原に聞こえない程度の声でつぶやいた。

 

平原は席に座るとサトシが

「平原様、何を飲まれますでしょうか?」

と爽やかに聞いた。

 

「レモンチューハイってありますか?」

 

「ございます」

 

「では、それをください。それから、リリーさんのお好きなものも一緒に、お願いします」

平原は丁寧に注文をして手を合わせた。

 

「かしこまりました」

サトシは、リリーに合図をして厨房へ入って行った。

 

リリーは本題に入った。

「このお名刺の西支社の方が、私に何か用かしら?あなた、占いに来たわけではないですよね?」

 

平原は少し目をパチパチして

「私が何をしに来たかも分かるのでしょうか?」

恐る恐る聞いた。

 

リリーは笑顔のまま

「だいたいは…ってところかしら?あなたは勧誘に来たのでしょう?」

聞き返した。

 

「はい。そうなんです。

リリーさんの噂を聞いて是非とも、そのお力を世の中の人々のために使ってもらえないかと思いまして。

お伺いさせていただきました」

 

平原は何度も会釈しながら話した。

 

リリーは大きく深呼吸して口を開いた。

「今も人々に使ってると思うけど…って、

ストレートに言うけど、私、無宗教なの。

どこかに所属するつもりもないわよ」

 

平原は

「それは良かったです。

どちらか信仰されてるものがあったら、この話は難しいと思っておりましたので。

所属されてないのは嬉しい話です」

少し早口に言って喜んでいる。

 

「私の話、最後まで聞こえてなかったのかしら?」

リリーが淡々とした声で聞いた。

 

そこへ厨房からサトシが出て来た。

「お待たせいたしました〜。平原様、レモンチューハイでございます。ママ、ビールです」

 

ビールグラスをリリーに手渡すとサトシは、ニコッと微笑んだ。

 

リリーは落ち着いて

「乾杯」

と平原のグラスと合わせて

ビールを呑んだ。

 

「ねぇ、何で勧誘に来たの?」

リリーが質問した。

 

「そんなもの決まってますよ。

そんなにすごい力を多くの民のために使ってもらいたいと心から思ってるからこそ、ココへ来ました」

平原は力強く言った。

 

「民って…何目線なのかしら?」

リリーは腕組みをして続けた。

 

「私は、あなたのところだけではなく、全ての宗教に所属したり活動したりするつもりはないわ」

改めて断った。

 

平原は臆することなく

「そんな力があるのなら、より多くの人のためになる活動をするべきではないでしょうか?

選ばれし者ですよね?

神は、リリーさんに与えたわけですから、それを神のために使うのは普通だと思うんです。

このお店の活動も素晴らしいと思います。

これにプラスして私どもの活動も視野に入れては、もらえないでしょうか?」

熱弁した。

 

リリーはタバコとライターを持って平原へ向けて

「タバコいただくわ」

と言いながら、軽く会釈した。

 

リリーは、タバコに火をつけた後に低めのトーンで話し出した。

 

「結論から言うと、その役目は私じゃないわ。

私は宗教的なことをするために下りて来てないの」

 

「どう言う意味でしょうか?」

平原が前のめりに聞いた。

 

「私は私の心残りを解消するために無理を言って下りて来たの。

神の声を広めるとか、世の為、人の為みたいな役目なんて無いわ」

リリーが真顔で話した。

 

「でも、それだけの力があるのですから、

お役目を言い渡されてなかったとしても、

これから皆んなの為に使うことは可能じゃないですか?」

平原は引かない。

前のめりに続けた。

 

「リリーさん、是非うちの幹部になってもらえませんか?」

 

リリーは左手の甲をおでこに当ててニヤケた。

リリーは、ニヤケたまま答えた。

 

「幹部?ならないわよ。

何度も言ってると思うけど、私の役目じゃないわ

 

平原はめげない。

「では、まずは、うちのトップと会ってもらえませんか?

そこで考えてもらえたら…どうでしょうか?会ってみるだけでも…」

 

リリーは笑えてきた。

やっぱり言葉が通じない。

リリーは笑いながら答えた。

 

「会っても何も変わらないわ。トップの人の時間の無駄になるから、やめとくわ」

 

平原は、それでもめげない。

「時間の無駄になんてなりません。

それほど、リリーさんは神に仕える者として、とても必要な存在だと私は確信しております」

 

平原の熱量が半端ない。

営業マンならメーカーで1番の売上になるに違いない。

 

リリーは苦笑しながら答える。

「わかったわ!私が私で宗教を作るってのは、どうかしら?

リリー教でも、シヴァ教でも、名前は何でもいいから、私の宗教に私は所属します。

だから、あなたのところの宗教の活動は出来ません。これでいいかしら?」

 

平原はポカンとした顔をして

「それは…もったいない。

でも、いつでも会う気になったら言ってくださいね。待ってますから…」

 

そう言いながら意気消沈した。

 

平原は急に気が抜けたのか、レモンチューハイをほとんど残して帰って行った。

 

リリーは新しいタバコに火をつけて

「リリー教と、シヴァ教、どっちがいいと思う?」

と言いながら笑った。