第19話ー依存する女

今宵も【Bar Siva】の看板に灯りがついた。

ボーイのサトシは開店準備を終えて、リリーに言った。

「ママ、今夜の1番目の予約は佐藤様です。よろしくお願いします」

リリーは、タバコを吸いながら軽く手をあげて『了解』のサインを送った。

「いらっしゃいませ〜」

お店のドアが開いて真っ赤なワンピースを着た女性が入って来た。

その女性、佐藤は常連で慣れた様子でカウンターの椅子に座った。

「リリーさん、お久しぶりです。相変わらずお綺麗ですね〜。

お逢い出来るのを楽しみに来ました。今日も宜しくお願いします」

リリーはタバコを消しもせずに言った。

「ようこそ。あなたも相変わらず艶やかね。

そのワンピース、ラッキーカラーを着て歩いてるのね。とてもお似合いですわ」

佐藤は満面の笑みで

「そうなんです。とってもお気に入りなんです。この色で、このデザインに、一目惚れしちゃいました」

ウキウキした声で言った。

そこへサトシが

「佐藤様、御来店ありがとうございます。今夜の飲み物は何になされますでしょうか?」

爽やかにきいた。

「私は…レッドアイで、お願いします。もちろん、リリーさんとサトシさんも、どうぞお好きなものを飲んでください」

佐藤は嬉しそうに答えた。

「かしこまりました」

サトシは小さく会釈をして厨房へ入って行った。

佐藤は大きいベージュの鞄の中から、ノートとペンを取り出して、カウンターの上に置いた。

「今夜は、お聞きしたいことが山積みなので、忘れない様にメモして来ました」

佐藤は言いながら、そのページを開いた。

リリーはタバコを消して軽い腕組みをして口を開いた。

「それは乾杯の後からスタートでも構わないかしら?

前回来られた時から今日までで何か変わった事があれば、先にお聞きしたいわ」

佐藤はボールペンを握って、空いてる方の手のひらに向けて、トントンとしながら眉間にシワを寄せ、思い出す仕草をした。

「う〜ん…大きく変わってないと思う。

主人とも何も問題ないですし、子供たちも社会人になって落ち着いてますし、チャコは相変わらず元気ですし…」

佐藤は皆んなの様子を思い出しながら、ゆっくり答えた。

ちなみにチャコはプードルだ。

そこへサトシが飲み物を運んできた。

「佐藤様、レッドアイでございます。ママと僕はビールで乾杯させていただきます」

リリーとビールグラスを受け取ると

「ごちそうになります」

と言って皆んなで乾杯をした。

「何杯でも呑んでください。私に確認しなくて大丈夫ですのでドンドンどうぞ。

もちろん、リリーさん、タバコもどうぞ」

佐藤は、そう言って笑顔で鞄から、リリーの吸っている銘柄のタバコを1箱取り出した。

リリーは

「あら〜。毎度毎度ありがとうございます」

大袈裟に言って受け取った。

佐藤はニコッとして改めてボールペンを持って言った。

「では、始めさせていただきます」

佐藤はノートに書いてあるものを順番に読み上げていく。

「まずは、来週、主人の誕生日があるのですが、何屋さんに予約したらいいと思います?」

リリーも慣れたもので淡々と答える。

「ご主人に何が食べたいか聞いてみては、どうかしら?」

「主人、いつも君が食べたいもので良いよって言うんです。毎年困ってて、リリーさんは何が食べたいですか?」

「私は参加しないからねぇ〜。ご主人の好物って何なのかしら?」

「主人は豚の角煮とかキンピラとか和食が好きだと思います」

「じゃー、和食の店にしたら喜ぶんじゃないかしら?」

「えー?!だとしたら、どこか良いお店ご存知ですか?」

「美味しいお店、いくつか知ってるから情報をサトシにメールで送ってもらうわ」

「本当ですか?嬉しいです。よろしくお願いします」

リリーはサトシに『あれ』と『あれ』とお店の名前を伝えて即、送る様に言った。

リリーはタバコに火をつけて

「次は何かしら?」

と聞いた。

「次は〜、チャコに子供を産ませるか去勢手術させるか、どちらが良いと思います?」

「あなたは、どうしたいの?」

「私は産ませたいけど、全部は飼えないし、もらい手を探したりが少し不安なんですよね。

それで、産ませないなら去勢手術する方がチャコにとっても良いのかな?って…」

「ご主人に相談してみたら?

ご主人、頼られたりが好きでしょ?産ませるにしても、ご主人の協力が必要になるしね」

「そうですね。本当ですよね。主人に相談してみます」

リリーは、空になったビールグラスをサトシに向けて見せた。

サトシは右手を軽くあげて合図をして厨房へ入った。

「次は〜車を買え変える話が出ていて、何を買ったら良いか?車の色は何色がいいか?」

「それは、誰の名義の車なの?」

「主人です」

「ご主人、車にこだわりないの?ご主人に決めてもらうのが1番良いのではないかしら?」

「そうなんですが、何色の車にするとか、より良い方が安心しますので…」

「ご主人のラッキーカラーは何色だったかしら?」

「以前に調べてもらったのが…」

そう言いながら佐藤は、ノートの前のページをめくっていった。

「あっ!白と紺色です」

「では、それを視野にご検討されてみては、いかがでしょうか?」

リリーは優しく微笑んだ。

「はい。そうします。ありがとうございます。

では次は〜携帯電話の機種変更をするのに、メーカーと携帯のカラーと・・・」

・・・

似た項目を20個以上やり取りする…

リリーは全てに聞く

「あなたは、どうしたいの?」

佐藤は自分で答える。

リリーは言う。

「では、そうしてみては?」

答えは全て自分の中に持っているのだ。

リリーは毎回言う。

「今度から、まずは自分がどうしたいかを考えてみたらどうかしら?

それでも決まらない時は、ご主人に相談したら喜ぶと思うわよ」

佐藤も毎回言う。

「わかりました!やってみます。いつもアドバイスをありがとうございます」

・・・

答えは全て自分の中に持っている…