第22話ー離婚する勇気

今夜の予約の1番手は常連さんで、今回の悩みは娘さんの事らしい。

 

そんなプチ情報をボーイのサトシから聞いた【Bar Siva】のオーナーママであるリリーは、タバコに火をつけた。

 

ゆっくりと深呼吸をする様に、タバコの煙をくゆらした。

 

そして、目をつぶって意識を飛ばす。

 

まるで瞑想をしているかのようだ。

 

リリーが、ゆっくりと目を開き呟く。

 

「切ない話ね…」

 

サトシが、その様子を黙って見ていたが口を開いた。

 

「切ない話なんですか?」

 

サトシの方へ向くこともないままでリリーが答える。

 

「そうね…今は切ない話ね」

 

「だとしたら、未来は明るいのですか?」

サトシは相変わらず素直にきく。

 

リリーはサトシの眼を見てニッコリと微笑んだ。

 

そこで店のドアが開いた。

 

「いらっしゃいませ〜」

サトシが反射的に笑顔で言う。

 

リリーは店に入って来た常連の松岡に向かって

 

「ご無沙汰です。ようこそ〜。こちらへどうぞ」

手招きをしながら笑顔で言った。

 

松岡はカウンターに座りながら

「本当に久しぶりです。毎日いろんなことが忙しくて、なかなか逢いに来れませんでした…」

少し疲れた声で言った。

 

リリーは優しい声で聞いた。

「今日は何を飲まれますか?」

 

「私は珈琲のブラックで。リリーさん、ビールお好きなだけ呑んでください」

 

さすがに常連さんは良く解ってらっしゃる。

 

注文の仕方に無駄がない。

 

サトシも出来るボーイ代表として、お客様のニーズを先に読んでいる。

 

珈琲豆を挽いて準備万端のフラスコでいれた珈琲と、ビールを即座に運んで来た。

 

松岡は少し驚いた感じで

「さすが、サトシ君ですね〜」

と笑いながら2、3度拍手した。

 

「では、久しぶりの再会に乾杯です」

リリーはビールグラスを松岡に向けてエア乾杯した。

 

松岡は会釈すると突然本題に入った。

「今日は娘のことで来たのですが、娘と婿の写真を見せた方が良かったですよね?」

そう言いながらスマホの写真を検索している。

 

リリーはビールグラスを片手に持ったままで答えた。

「写真がある方が、より解りやすいわ」

 

松岡は写真を検索しながら続ける。

「娘は結婚して、子供が欲しかったのに、なかなか出来なくて、結局不妊治療に行ってたんです」

 

「それは、かなりしんどかったわね。不妊治療は女性に負担が大きいから」

リリーが眉間にシワを寄せて言った。

 

「そうなんです。でも、娘は子供が好きだし頑張って治療を続けていて、

受精卵を体に入れるって時に旦那のサインが必要で、

それを言うと、旦那が拒否したんです」

 

「えっ?拒否?」

リリーは分かっていても声が出た。

 

松岡は冷静に話を続けた。

「そうなんです。今でも我慢してることが多いのに、

子供が生まれたら、もっと辛くなるのは目に見えている。

だから同意は出来ないって言ったらしいです」

 

リリーは呆れた顔で

「まぁ〜なんと!結婚してる旦那に言われるセリフには思えないわよね」

少し吐き捨てる様に言った。

 

松岡はカウンターに前のめりで

「そうですよね?!無いって私も思ったから離婚したら?って話になったんですよ。なのに、うちの娘ときたら、離婚したところで新しい出逢いとか結婚とか子供とか想像出来ないって言うんです。リリーさん、どう思います?」

早口でリリーに詰め寄って、検索していたスマホを置いた。

 

リリーは即答した。

「離婚したら、すぐ新しい人に出逢うわ!

それと、新しい人とは自然に妊娠もするから不妊治療みたいに辛いことをしなくて済むわ。

早く別れる様に言ってあげて」

 

「すぐ見つかって結婚して子供出来るのですか?」

松岡は確認のため聞き直す。

 

「その通りよ!今の旦那とは未来は無いわ。

お互いに別れて違う道を進むことが幸せだから、とにかく別れることを勧めるわ」

リリーは真顔で言う。

 

「では今の旦那は娘にとっての運命の人ではなかったということでしょうか?」

娘想いの松岡がきく。

 

「運命の人ねぇ〜。まぁ、娘さんには今の旦那じゃないと思うわよ。

大丈夫!本当にビックリするくらい次が見つかるから」

リリーがニヤけながら答えた。

 

「でも、娘は今の旦那と別れて次って想像付かないって言ってるんですよね。

それは、どう言えばいいですか?」

松岡が心配そうにきいた。

 

「みーんな、そう言うのよ。

今の人と別れて新しい出逢いは無いのでは?って…

そう言う人ほど、アッサリ次の人を見つけるから大丈夫よ!

だから、手離したら出逢えるからって話してもらうしかないわ。

どちらにしても別れるのが見えてる相手と1日でも早く、さよならすることをお勧めするわ。

時間がもったいないから…そう伝えてもらえるかしら?」

リリーが松岡に頭を下げた。

 

「わかりました。帰って娘に話してみます。

最短で別れられる様に私も手伝います」

松岡は、そう言うと、少し冷めた珈琲を1口飲んだ。

 

リリーはニッコリ微笑んで

「道が見えたから安心ね」

そう言ってビールを一気に呑み干した。

 

・・・

 

松岡の娘は

 

すぐ離婚して

 

それから新しい出逢いがあり…

 

結婚をすることになり

 

その後、自然妊娠をして

 

孫が産まれたと

 

松岡から大喜びの連絡が来たのは

 

2年後だった…