第27話ー眠い病

定刻の19時と同時に【Bar Siva】の看板に灯りがともる。

 

ボーイのサトシは予約表を確認しながら

オーナーママであるリリーに話しかけた。

 

「ママ、広瀬様がお見えになります。先に呑まれますか?」

 

リリーはニコリとしたまま顎を店のドアの方へ動かした。

 

サトシがドアの方へ顔を向けた途端に広瀬が入って来た。

 

「いらっしゃいませ〜」

反射的にサトシは言った。

 

広瀬は少しフラフラした様子でカウンターに座った。

 

リリーが声をかける。

「院長、お疲れモードですか?」

 

広瀬が頷きながら答える。

「やっぱり、そう見える?何かフラフラするというか寝ても寝ても眠い…珈琲もらえるかな?」

 

「かしこまりました。広瀬様、お砂糖とミルクは、いかがいたしましょうか?」

サトシが丁寧にきく。

 

「今日は要らない。あっ、2人とも呑んで。もう聞かなくてもいいから」

広瀬は強弱のないトーンで話した。

 

リリーが端的に言う。

「院長、その背中というか、腰につけてるのは何?」

 

広瀬はピクッとして

「えっ?!俺、何か憑けてる?」

言いながら後ろを向く。

 

「憑いてるけど…」

リリーは目を細めて広瀬の背中を視る。

 

「何か薄い緑色の小鬼みたいな奴。ゴブリンかな?」

リリーは首を傾げたまま再度、視る。

 

広瀬は何度も後ろを振り向きながら

リリーの顔を見る。

 

「とにかく退いてもらうわね」

リリーは、そう言うとカウンター越しに右手を広瀬の背中に当てた。

 

リリーは目を閉じて、大きく息を吸って吐きながら何か呪文を唱えている。

 

そして、パッと目を見開き

 

右手で広瀬の背中を祓い、両肩を、撫でた。

 

「ハイ!おしまい!」

リリーが笑顔で言った。

 

広瀬は目をパチパチさせながら

「えっ?何だった?」

 

キョロキョロして

「えっ?目が覚めたけど…」

 

リリーの目を見て急に笑い出した。

 

「どういうこと?そいつが憑いていたから眠くて仕方なかったってこと?」

広瀬は半笑いできく。

 

「みたいね」

リリーがアッサリ答えた。

 

そこへサトシが珈琲とビール2個を運んで来た。

 

リリーはグラスを受け取り

「いただきま〜す」

と言いながら広瀬へグラスを上げて見せた。

 

サトシも笑顔でグラスを上げる。

 

広瀬は

「いやぁ〜。本当に目が開いたよ!俺の今日1日の格闘は何だったんかな?ずっと眠くて、眠気との闘いだったのに」

珈琲も飲まずに目が覚めた感動を喋る。

 

リリーはビールをグラスの3分の1ほど呑んで

「ん〜今日も美味しいわぁ〜」

と本調子になったところで続けて言った。

 

「院長、昨日の最後の患者さんの施術した時に眠くなるほど疲れたんじゃない?」

 

「まぁ〜疲れたよ。帰ってすぐ寝たし…」

 

「その人、来た時は疲れ切ってたのに帰る時に妙に元気じゃなかった?」

 

「よく覚えてない…」

 

「その人の置き土産ね」

 

!!

 

「置き土産?えっ?その人から受け継いだってこと?」

広瀬は目をパチパチどころか

 

目をバタバタさせて

「眠くなるゴブリンをもらったってこと?」

言いながら自分で自分に説明している。

 

リリーは笑いながら答える。

「そうなるわね〜。でも、もう出てってもらったから良いんじゃない?」

 

広瀬はニタニタして

「いやぁ〜こんなに違うもんなんだね。あんなに眠かったのに取るだけで目が開く、この感覚…面白い体験だ!」

やたら感動している。

 

リリーはタバコに火をつけて

「院長も一服したら?」

と広瀬の前に灰皿を置いた。

 

広瀬は胸ポケットからタバコと簡易ライターを取り出してカウンターに置いた。

 

「珈琲飲む前に目が覚めるって面白いよね」

広瀬は感動のあまり同じことを繰り返し話す。

 

リリーは笑いながら

「わかったし、院長!落ち着いて」

と言いながら右手で、おいでおいでの様に手を振る。

 

「いやぁ〜本当に目が覚めたし、目が開いた」

相当、感動したらしい…

 

広瀬は、リリーが昔から通うカイロプラクティックの院長先生だ。

 

昔から目に見えないものに興味があり、気の流れやレイキを勉強したりしている。

 

広瀬は人の体に触る職業であり、人の悪い気を吸ってしまうことも多く、鑑定というよりは、ある一定の間隔でリリーに会って、自分のコンディションの確認をしている。

 

リリーとしてみたら店で会うよりは

広瀬のサロンで会う方が多いのに今日わざわざ来たのも理由があったわけだ。

 

深層心理の中で広瀬が答えを持っているということだろう。

 

リリーは広瀬のタバコに火をつけて

「院長、落ち着いて。良く分かったから」

喋りながら頬がこぼれる。

 

広瀬はご満悦の様子で

「今日は本当に来て良かった」

タバコを、ゆったりと吸いながら話す。

 

サトシが

「広瀬様、変わったものに好まれるのですね」

唐突な発言をした。

 

リリーは一瞬固まった後に一生懸命に笑いをこらえた。

 

広瀬は何も動じずに

「そうなんかな?変わってるのかすら見えないから全く分からないよね」

と、とても普通に答えた。

 

とても良い人だ!

 

リリーはビールを呑み干すとサトシに向けて目配せをした、

 

「ねぇ、院長。院長の前世?

イースター島というか、宇宙というか、その時代の記憶ってあるの?」

いきなりの質問だ。

 

広瀬は目をギョロギョロさせて

「な、ないよ」

とやっと答える。

 

「それは残念ね〜。私も教えて欲しかったのに…」

リリーがうつむいて言う。

 

「えっ?俺の前世ってこと?」

広瀬はキョトンとして聞く。

 

「まぁ、そうだとしても記憶ないなら又、今度ね〜」

リリーは新しいビールを受け取ると広瀬にエア乾杯をした。

 

・・・

 

気になることは山積みだか…

 

また、そのうちに

 

・・・

 

追伸…

 

寝ても寝ても眠い人…

 

もしかしたら?

 

あなたも薄緑のゴブリンを背負ってるかもしれませんよ…

 

お気をつけくださいませ…