第28話ー狐使いと狐憑き

【Bar Siva】は本日も定刻通りにオープンした。

ボーイのサトシは看板のスイッチを入れた後に

オーナーママのリリーに声をかけた。

 

「ママ、時間になりました。予約は角様と仰る方です」

リリーは即答した。

「ビールをお願いするわ。その人はキャンセルになると思うから…」

 

「えっ?キャンセルですか?」

サトシは大きい声で反応した。

 

その時、お店の電話が鳴った。

「Bar Sivaでございます」

サトシが即座に電話に出た。

「はい…はい、はい。承知いたしました。お気を付けてくださいませ。では、失礼いたします…」

サトシが受話器を置くと同時に

「ママ、角様、事故渋滞に巻き込まれて高速で身動きが取れないみたいです。キャンセルになりました」

興奮気味に早口で言った。

 

リリーはタバコに火をつけて

「サトシ、ビール」

そう言うと軽くウィンクした。

サトシは慌てて厨房へ行き、ビールを注ぐと急いでビールをリリーに手渡した。

リリーのウィンクは機嫌が良いとは限らないのだ…

 

サトシは素朴な疑問をリリーに聞きたい!

リリーがビールを呑んで落ち着くのを待った。

リリーがビールをカウンターに置いてタバコを吸い出した頃をみて、サトシは口を開いた。

 

「ママ、角様がキャンセルになると何故分かったのですか?」

やっと聞けた。

「何で?とは?」

リリーは、ゆっくりタバコを吸いながら聞き直した。

「キャンセルの電話の前に、そう仰ったじゃないですか?」

サトシは1歩前に出て来た。

 

リリーは顔色ひとつ変えずに答える。

「だって、狐憑きだもん」

!?

 

サトシは目をパチパチして首を少し傾けた。

「狐憑きって何ですか?」

「その文字通りよ」

リリーは無表情だ。

 

「狐が憑いてるってことですよね?」

サトシが少しパニック気味だ。

リリーはビールを飲みながらコクリと頷く。

 

「狐が憑いてるとキャンセルになるのですか?」

サトシは頭を整理しながら聞いた。

「そうみたい…」

リリーは興味がないのは明らかだ。

サトシはモヤモヤを残さないために頑張って質問をする。

 

「どうしてなんですか?ママに逢えないってことですか?」

「昔から狐憑きの人とは逢えないんだよね。相手が頑張って来た時は、狐を剥がすから嫌なんじゃないかな?…狐が…」

???

サトシは思考回路ショート気味になりながら言葉を発した。

 

「き、き、狐は剥がされたくないから来れない様にするってことですよね?」

リリーは小さく頷いた。

「狐が悪いわけでは無いと思うの。

まぁ、良い狐も悪い狐も世の中には存在するとは思うけどね。私と相性が合わないだけよ。

 

実際、狐憑きには逢えないけど、狐使いは逢えるでしょ?」

リリーの話を聞きながらサトシの混乱は最高潮になっていた。

 

「狐使いとは?」

「ん?狐をお使いに出す人」

「狐をお使いに出せる人なんて存在するんですか?」

サトシは少し震えた声で聞いた。

 

「あら?知らなかった?お蘭は狐使いよ」

!!

サトシは一瞬気が遠くなった。

サトシは首を左右に数回振って、正気を取り戻した。

「お蘭様って、狐使いなんですか?」

 

「そうよ。響も狐持ってたかな?…よく覚えてない…」

「ひ、ひ、ひびき様も?」

サトシは頭がパンパンだ。

「マ、ママも持ってるんですか?」

「私は狐は持ってないわ」

 

リリーはサトシの質問に答えた後に続けて言った。

「ねぇ、この後の予約は何時から?」

サトシは予約表を確認して答えた。

「角様がキャンセルになりましたので、次は21時からになります」

「じゃー、出掛けて来ても良いかしら?ってダメって言われても出掛けるけどね〜」

「あっ、はい。大丈夫です。ママ、スマホだけ持って行ってくださいませ」

 

リリーは満面の笑みでタバコケースに数枚のお札を入れて、左手に持ち、右手にスマホを持った。

店のドアのところで右手をサトシに向けてかざして

「は〜い。行ってきま〜す」

今までに見たことのない笑顔で出掛けて行きましたとさ。

リリーの後ろ姿を見送りながら、サトシは

まだ、呆然としていた…

・・・

リリーの行き先は?

それは・・・

またの機会に…