第31話ーわざわざ言わない

「いらっしゃいませ〜」

ボーイのサトシが反射的にだが、爽やかに言った。

 

【Bar Siva】は予約制が主だが、珍しく予約をしていない突然来店のお客様が店のドアを開けた。

 

オーナーママのリリーは入って来た女性に軽く手をふりながら声をかけた。

 

「あら?珍しい人のご来店ね〜。元気にしてたの?」

 

その女性は右手を振りながら笑顔で近づきながら喋る。

 

「さっきまで三浜さんの店にいて、突然は無理かもしれないと思いながら来てみました」

「どうぞ、お座りになって。雅美さんって言ったかしら?あなた、ツイテルわね」

リリーが右手で席を案内しながら言った。

 

その女性、雅美は座りながら軽く言う。

「えー?私に何か憑いてるんですか?」

 

リリーが雅美に灰皿を出しながら笑った。

「その憑いてるじゃなくて、ラッキーって意味よ。予約無しでも普通に入れるんだから」

 

雅美はタバコをカウンターの上に置いて

「うふふ。なんだか嬉しいです」

と微笑んだ。

 

ボーイのサトシが笑顔できく。

「お客様、何にいたしましょうか?」

 

「焼酎の炭酸割りってありますか?」

 

「ございます。麦と芋とどちらがお好みでしょうか?」

 

「麦で」

 

「かしこまりました、レモンはお入れしますか?」

 

「あ、はい。お願いします」

 

「承知いたしました」

サトシは終始笑顔で応対した後、リリーを見た。

 

リリーが目配せをして、サトシは厨房へ入って行った。

 

リリーが口を開いた。

「私もビールいただいても構わないかしら?」

 

「あ、どうぞどうぞ。乾杯したいです」

雅美は右手で促す様な仕草をした。

 

「ありがとうございます」

リリーが言った後に続けて話した。

 

「で、今日はどうしたのかしら?三浜のところにいたのでしょう?」

 

雅美は微笑みながら答えた。

「そうなんです。早めの時間から呑んでました。三浜さんのお店は今日ゆっくりしていて、お客が私だけになったので、三浜さんから、リリーさんの店に行かないか?と誘ってもらったんです」

 

「ん?三浜来るの?」

リリーは雅美のタバコに火をつけながら聞いた。

 

「この店に入れたら連絡してくれって言われてるのでメール入れますね」

雅美はスマホを鞄から取り出して手慣れた様子でメールをする。

 

そこへサトシが飲み物を運んで来た。

 

「お待たせいたしました。麦焼酎の炭酸割りのレモン入りでございます」

 

リリーもビールを受け取ると

 

「ようこそBar Sivaへ。乾杯!」

 

と言いながら雅美のグラスへ軽く当てた。

 

リリーはビールをグビグビ吞んだ。

「あ〜美味しい。三浜から返信あったのかしら?」

 

雅美も焼酎の炭酸割りをグビグビ吞んで、メールを確認した。

 

「今から行きますって返事がきました」

 

「三浜、何かあったのかしら?こんな登場の仕方、珍しいけど…」

 

リリーは自分のタバコに火をつけた。

 

「いや、何も聞いてません。私が以前、お蘭さんに占ってもらったことがあるのですが、リリーさんには占ってもらったことがないって話になって…」

 

雅美がタバコの灰を灰皿に落としながら続けて話した。

 

「それで、三浜さんが行ってみて店に入れたら鑑定をしてもらったら?って話になったんです」

 

リリーはタバコの煙を斜め上に向いてはいた後、口を開いた。

 

「あなた、何を知りたいの?今、充実してるじゃない」

 

雅美は少し照れながら

 

「充実してるかもしれないですが、恋愛のことや今月で仕事辞めるので、これからの仕事のこととか知りたいです」

 

真っ直ぐにリリーに向かって言った。

 

「そう…仕事辞めて、どうするの?」

 

「辞めた後に次にする仕事を工場の作業みたいのが良いのか、今みたいに接客業が良いのか考えてて」

 

リリーが即答する。

 

「あなたには接客業が向いてるわ。工場でも仕事は出来るけど楽しくないわよ」

 

「やっぱりそうですか?そうですよね」

 

「恋愛って、あなた好きな人いるの?」

 

「いっぱいいて困ってます」

 

雅美は少し天然混じりに答える。

 

「う〜ん。あなたの場合、気持ちはイケメンや可愛い男性にあるのかもしれないけど、別にセフレがいるんだし、満たされてるから良いのではないかしら?」

 

リリーは、さらりと爆弾発言をした。

 

雅美はヘラヘラと笑い出し

 

「そ、それって何で分かるんですか?誰にも言ってないのに…」

 

しどろもどろで答える。

 

「えっ?もしかして自慢?」

 

リリーは大袈裟に驚いて右手で口を隠した。

 

「えー。自慢ではないですよ」

 

雅美も何だか慌てる。

 

「だって、精神的にイケメンで満たされて、肉体的にセフレで満たされていて充実しまくりじゃない。自慢ってことよね?私、満たされちゃってますみたいな…」

 

リリーは口を隠したまま少し大きめな声で言った。

 

雅美はニコニコが止まらないまま話す。

 

「自慢のつもりは無いですけど、満たされてるって言えば満たされてます」

 

リリーはタバコを消しながら言う。

 

「今のままで良いと思うよ〜。今、アプローチされてる人はイマイチだと思うし、子供を産んで欲しいって言われても、あなた産む気ないでしょ?」

 

雅美はマイペースに答える。

「はい。そうなんです。少し前まで産みたい時期があったんですが、通り過ぎてしまって…」

 

「バツイチで娘がやっと手が離れるのに今から新生児?余程の気合が必要よね。結局、誰のために産むのか?って問題にもなるわね」

 

「そうなんです。相手もバツイチで子供いるから、わざわざだと思うのですが、息子に兄弟を作ってやりたいって言ってました」

 

リリーは新しいタバコに火をつけながら言う。

 

「どっちが幸せかなんて分からないわよね…子供を産むことが親のエゴになることもあるしね」

 

「今、産む元気もないので、その人の気持ちには答えられないって思うんです。だから会うのも辞めようかと思ってます」

 

雅美が真顔で答えた。

 

リリーは真っ直ぐ雅美を見つめて口を開いた。

 

「会うのは自由だけど、流されないことね。あなたは今、セフレのお陰で肉体的に満足してるし、人肌恋しかったのもクリア出来てるから、その人と深く考えるより、少し今を楽しんだら?」

 

「はい。そうします」

「この事は三浜も知らないの?」

 

「誰にも言ってないので知りません。でも、もうオープンで大丈夫です」

 

雅美が開き直った!

 

「わざわざ言わなくても良くない?」

 

リリーは笑えてきた。

 

「いや、大丈夫です。占いは、これで終わりとして1つ聞いてもいいですか?」

 

「いいわよ。何かしら?」

リリーは、そう言った後にビールを呑んだ。

 

雅美はニコニコしながら言う。

 

「うちの家にいる人は大丈夫でしょうか?」

 

リリーはニヤけてきた。

 

「それが1番、鑑定としては必要な話なんじゃないかしら?だって、押入れの生きてない男性の話よね?」

「あ、はい。そうなんです。普段は気にならないのですが、たまに気になることがあるんです。お祓いするとか必要でしょうか?」

 

「必要ないと思うわよ。悪さする人ではないし、気になるなら出て行って欲しいって声を出して言えば、出て行ってくれると思うけど…」

 

「あ、いや、大丈夫ならいいんです」

 

雅美がニコニコして言った。

 

「でも、本当に鑑定としては今の話が大切で、セフレの存在をわざわざ言わなくても良かったと思うけど〜。結果、やっぱり自慢よね。私、充実してますって…」

 

リリーは笑いながら話した。

 

そこへ店のドアが開いた。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

サトシが爽やかに言う。

 

どうやら三浜が来たようだ。

 

・・・

 

今宵はここまで・・・