第33話ー時空を超えた愛
今夜も【Bar Siva】オーナーママのリリーは、独特の雰囲気を醸し出してカウンターに立っている。
黒のドレスに黒のストール、ゴールドのネイルがゴージャスで存在感がある。
今日は濃いブルーのメイクで妖艶さが増している様に感じる。
ボーイのサトシは厨房から出て来て、リリーへ言った。
「ママ、開店準備出来ました。1番は山岡様です。先に呑まれますか?」
「もう来ると思うから同時でいいわ」
リリーは目を瞑ったまま答えた。
サトシが返事をする前に店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ〜」
反射的にサトシが笑顔で言った。
ドアを開けて笑顔で山岡が入って来た。
「お久しぶり〜」
山岡は話しながらカウンターの席に座った。
「山岡様、ようこそお越しくださいました。お飲み物はいかがいたしましょうか?」
ボーイのサトシが爽やかに聞く。
「チューハイレモンで」
「かしこまりました」
「あっ!リリーさんにもビールをお願いします」
「かしこまりました」
サトシは軽く会釈をして厨房へ入って行った。
リリーが口を開く。
「ご無沙汰です。その後、どう?」
山岡は鞄からタバコを出しながら答える。
「その後…う〜ん。順調って言えば順調かな?」
「ゆみは元気?」
リリーは山岡のタバコに火をつけながら言った。
山岡はタバコの煙を横に向いて吐いた後に答えた。
「元気よ。関係も良好だと思う。あれから、ゆみの言うことを聞いてやれる様になったし、ゆみも落ち着いてるから」
そこへサトシが厨房から飲み物を運んで来た。
「お待たせいたしました。チューハイレモンでございます」
サトシから飲み物を受け取ったリリーと山岡。
「さ、とにかく、カンパーイ」
リリーは笑顔でそう言うと山岡のグラスに軽くビールグラスを当てた。
リリーはグラスの半分近くまでビールを飲み干して口を開いた。
「あー美味しい。なんだかいつもより美味しく感じるわ…家族間が落ち着いてて良かったけど、あなたたち親子は前世からの絡みもあるから複雑よね」
山岡が眉間にシワを寄せながら思い出そうとしている。
「私と娘が結ばれなかったって話だったよね?」
「そう。あなたとゆみは恋人同士だった。家も近所で幼馴染…あなたが男で、ゆみは女だったわ。その時から、あなたはゆみに愛されてるのよ」
リリーは自分のタバコに火をつけながら答えた。
「確か、私がゆみの目の前で亡くなったんだったよね?」
山岡は少しズレた眼鏡を直しながら言った。
「そうね。目の前で殺されたの…仕方のない時代だったのよね。争いが絶えない中で生きていることが奇跡だもの」
リリーは伏し目がちに言った後、タバコを深く吸った。
山岡は、リリーを真っ直ぐに見つめたまま話す。
「そう言えば、ゆみが1人目の子供を産んだ時に変なこと言ったの」
リリーは山岡を真っ直ぐに見つめ返した。
山岡は続けて話す。
「産んだ後に『お母さんの子供を産んだよ』って言ったの。
『私、お母さんの子供を産んだよ』って…
おかしくない?」
リリーはニコリとして小さく頷いた。
「前世で叶えられなかったから、あなたの娘で生まれる選択をした彼女らしいわね」
山岡は驚いた様子で答える。
「そういう意味だったの?今まで全く気がついてなかったわ。選んで来てくれたんだね…」
リリーは少し遠い目をしながら言う。
「そうね。とても長い時間、ゆみは愛し続けてるわ。娘が母親を愛し続けるって、普通は逆よね〜」
「本当よね。すごく愛されてるのは感じるわ。前世からって長いねぇ〜」
山岡は溜息まじりで言った後にタバコを消した。
リリーは山岡の前世の映像を視ていた。
・・・
ゆみが山岡が撃たれて倒れた瞬間を目撃している。
駆け寄ろうとしているゆみを周りの人が止めている。
泣き叫ぶゆみ…
命の灯火が消えていく山岡…
ゆみが手を伸ばしている。
届かない…
悲鳴のような叫び声…
その声がだんだん遠くで聞こえる…
その声と共に映像も遠く小さくなり、やがて消えた…
そこから時を超えて、ゆみが山岡の子供を産んで初めて赤ちゃんを抱いた病院。
リリーは、その病院での映像を視た後
今、目の前の山岡の顔を見つめた。
「愛って本当に素晴らしいわね。歪んでる人も多いけど、純粋な愛のパワーに叶うものはないのかもしれないわね」
リリーは聖母マリア様のような微笑みと柔らかなトーンで言った。
山岡は少し涙ぐんで答える。
「私からは愛を返しきれてないかもしれない」
「大丈夫よ。愛を返して欲しいなんて思ってないから。また近いうちに孫の顔でも見に行けば?ゆみが喜ぶわ」
リリーは優しく穏やかに言った。
山岡は涙目で何度も頷いた。
・・・
・・・
今宵はココまで…
