第46話ー異質

今宵の【Bar Siva】は鑑定というよりも、オーナーママのリリーの同級生が来店している。

 

とは言っても鍋島ではない…

 

鍋島とも同じ中学校だったが、リリーと美紀は小学校から同じで気が付けば年に数回、食事に行く間柄である。

 

今日もお店の前に2人で食事に行って一緒に出勤して来たのだ。

一般的にいう『同伴』だ。

 

リリーはカジュアルに美紀に聞く。

 

「美紀、何呑む?」

 

美紀もカジュアルに答える。

 

「ビール呑もうかな?リリーも呑むでしょ?」

 

ボーイのサトシは美紀に会釈をして厨房へ入って行った。

 

リリーは自分のタバコに火を点けながら

 

「今度の同窓会、参加するの?」

 

目線をカウンターに落としたまま聞いた。

 

「その日、娘が帰って来るから林と相談したけど孫も一緒だし不参加ってことにしたのよ」

 

美紀は残念そうに言った。

 

「孫も帰って来るなら同窓会どころではないね」

 

リリーは笑顔で言った。

 

美紀は中学生の時から付き合っていた同級生と結婚したので、美紀の旦那様も同級生になる。

 

そしていつも旦那様のことを苗字で呼び捨てにするのだ。

 

表現が会社員である。

 

そんなところもリリーはお気に入りだ。

 

厨房からサトシがビール2つを持って出て来た。

 

「お待たせしました林様、ビールでございます」

 

サトシは爽やかに美紀の前にビールを置いて、もう1つはリリーに手渡した。

 

リリーはタバコを灰皿に置いて、ビールを左手で持ち

 

「ようこそ!カンパーイ。いただきます」

 

と勢い良く言って美紀のグラスに軽く当てた。

 

ゴクゴクと喉を鳴らしながらビールを呑んで、ひと息ついてリリーが口を開いた。

 

「やっぱり孫は可愛い生き物なの?」

 

「可愛いよ!可愛くて何してても可愛いよ」

 

美紀が被せ気味に即答した。

 

「そうよね。可愛いんだろうね」

 

「たまにしか逢えないのも、より可愛く想えるよね。ま、近くにいても可愛いのは変わらないと思うけど」

 

どちらにしても可愛いらしい。

 

「我が家はまだまだ先かな?子育ても終わってないしね」

 

『ママがいつもと違って普通の親バカに見える』

ボーイのサトシが心の中で呟いた。

 

そう、出来るボーイのサトシは決して声には出さない。

 

「ねぇ、同窓会って誰らが来るの?参加しないけど気になって」

 

美紀が話を戻した。

 

「私もあまり良く知らないけど、総幹事が鍋島だから人数は集まると思うわよ。誰か会いたい人とかいるの?」

 

リリーはタバコを吸いながら答えた。

 

「特に誰々に会いたいってよりは誰が来るのだろう?って思っただけよ。小学校の集まりは皆んな会いたいと思えば会えるけど、中学校となると知らない人もいるしね」

 

美紀はそういうとビールを呑んだ。

 

リリーはタバコを消してから口を開いた。

 

「私も中学校の同級生は半分は分からないと思うわ」

 

「そうよね。同じクラスになったことない人は全く分からないわ」

 

美紀はチャームのあられを食べながら言った。

 

チャームとは、飲み屋さんで出てくる乾いたおつまみのことを言う。

「リリーの能力は中学の時には自覚あったの?」

 

突然、美紀が聞いた。

 

「あったわよ」

 

リリーは普通に答えた。

 

「へぇ〜全然知らなかったわ。皆んなに内緒にしてたの?」

 

美紀は素朴な質問をした。

 

「内緒にするつもりはなかったの。でもね、中学に入学してから思春期も関係するのかもしれないけど、チカラのコントロールも出来てなかったから色々と大変だったの」

 

リリーはタバコに火をつけて続けて話す。

 

「私の右手のひらに、いわゆる第三の眼があって…

触れた物や人から映像を受け取ることがあるの。

中学1年の頃は視えたことを相手に言ってあげるのが親切だと本気で思ってたの。

だからね…」

 

リリーはタバコの煙が天井へ向かって上るのを見つめた。

その向こうに映る、中学1年の時のリリーが話し出した…

 

・・・

 

「おはよう」

 

リリーは学校の廊下で野球部の同級生に会って言った。

 

「おはよう」

 

と言ってその男子は右手を上げた。

 

リリーは反射的にハイタッチした。

 

その時、目の前にパソコンの画面があるかの様に映像が視えた。

 

その映像は、ハイタッチした男子が階段から落ちていくものだった。

 

リリーは親切心から、その男子に

 

「ねぇ、今日は階段で怪我するかもしれないから普段より気をつけて」

 

と教えてあげた。

 

その男子は少し驚いた顔をしたが

 

「わかった。ありがとう」

 

と言って手を振った。

 

その日の放課後に、その男子は階段で足を踏み外して転落して保健室に運ばれた。

 

骨は折れてなかったが酷い捻挫で、しばらくはクラブ活動を禁止することになった。

 

その男子はリリーの忠告が当たったことに驚き、友達に言って回った。

 

別の日に同じクラスの女子から、ひょんなことから映像を受け取った。

 

映像の中で、その女子が親から怒られてゲンコツされているのが視えた。

 

リリーは視えたことを伝えて気をつける様に言った。

 

次の日…

 

親からゲンコツされた彼女は友達に驚いて話をした。

 

気がつくと、リリーは皆んなから気持ち悪がられることとなった…

 

ヒソヒソと同級生たちがリリーを見ながら言っている言葉が聞こえる…

 

「気持ち悪い」

 

「全部勝手に見てるんじゃない?」

 

「怖いよね」

 

「触られたらダメらしいよ」

 

無視され、声かけても逃げられ、いじめにあった。

 

リリーは初めて気が付いた。

 

視えるものを言うことは結果、人を怖がらせてしまうのだ。

 

そして自分は異質なのだと…

 

それからリリーは視えても何も言わなくなった。

 

人の噂も75日。

 

リリーの能力のことを皆んな忘れていく。

 

気がつくと無視されることもなく普通の中学生生活に戻っていった。

・・・

 

目の前の美紀が大きな声で言う。

 

「そんな目にあったの?マジで〜?酷い話よね」

 

「いい勉強だったと今では思うわ。その時は何で無視されるのか理解出来なかったから」

 

リリーは懐かしそうに言った。

 

「その無視してた奴らも同窓会に来るのかな?」

 

美紀は心配そうに言った。

 

「来ても問題ないよ。昔のことだから」

 

リリーは声を出して笑った。

 

美紀はつられて笑った後にビールを呑み干した。

 

話は尽きませんが、今宵はココまで…

 

・・・