第47話ー牛を連れてる女

今宵の【Bar Siva】は政岡の紹介で会ったことがある女性の来店予定である。

 

その女性は四柱推命という統計学の占いとリーディングを長年されている実績があり、政岡の強い勧めで、この店のオーナーママであるリリーも昼間にみてもらったことがある。

 

リリーは人に占ってもらうことが少ないので新鮮でもあり、その女性の淡々としていてハッキリした言葉の使い方が気に入っている。

 

何だか分からないがウマが合うって感覚だ。

 

リリーはカウンターの定位置に立ち、いつもの様に目を閉じて瞑想をしていた。

 

お気に入りのタバコを燻らしながら…

 

リリーの今日の格好は、黒ベースだが紺色の刺繍がワンピース全体に散りばめられていて、まるでどこかの国の民族衣装の様にも見える。

 

リリーにしては少しカジュワルな雰囲気である。

 

それと対照的に濃いブルーのラメが入っているメイクで神秘的なオーラに包まれている。

 

そして今宵のリリーは瞑想をしながら笑みが溢れていた。

 

そこへボーイのサトシが話しかける。

 

「ママ、準備は完了いたしました。1番目のご予約のお客様は政岡様からのご紹介としかお聞きしておりませんが、大丈夫でしょうか?」

 

リリーは瞑想から帰ってきて目を開けて

 

「大丈夫よ。ありがとう」

 

そういうとタバコを消した。

 

サトシは厨房に入ってお店の看板の電気を入れた。

 

「看板点けました」

 

サトシの報告と共にお店のドアが開いた。

 

「いらっしゃいませ」

 

反射的にサトシが言った声が響く。

 

お店のドアを開けて入って来たその女性は

 

「こんばんは。辿り着けて良かったわ。ここは少し分かりにくいところにあるのね。駐車場も近くになくて探したわよ」

 

一挙に話しながらカウンターの席の前でリリーに笑顔で誘導されていた席に座った。

 

「ご無沙汰しております。お元気そうで何よりですわ。本日は何を飲まれますか?お車でしたら、確か…お紅茶で宜しかったかしら?」

 

リリーがいつもより柔らかいトーンで言った。

 

「そうね。紅茶にするわ。レモンにしてね。ポットとかで出てくるかしら?

砂糖は多めに頼むわ」

 

その女性は笑顔で言った。

 

それを聞いたサトシは

 

「かしこまりました」

 

と会釈して厨房へ入って行った。

 

リリーはあえて質問をする。

 

「今日のご用件は何がメインでしょうか?」

 

その女性はおしぼりで手を拭きながら

 

「そんなに急かさなくても…

私は今、運気的にどうなのかなって思って。

いろんな意味でツイテルとは実感してるけど、年齢も年齢なので将来を考える様になるでしょ?

それにあなたは後ろに連れてる人も視えるって話だったし、私は何を連れているのか知りたくて…」

 

スラスラと話した。

 

リリーは女性の背後を視た。

 

「牛がいますよ。黒い牛」

「えっ?どういうことかしら?牛って何?どういう意味かしら?」

 

「牛は真面目で着々と進んでいく能力があって

金運もあります」

 

「えっ?金運があるの?なら良いわね。牛?って思ったけど家に昔、黒い牛の置物があったわ。何かの御縁なのかも…」

 

「そうですね。牛を連れてるので牛子っていうニックネームが可愛いかもしれませんね」

 

リリーは満面の笑みで言った。

 

「あら?牛子ちゃん?なんだか可愛い響きね」

 

牛子本人も気に入ったみたいだ。

牛子は続けて言う。

 

「牛は金を連れてくるの?」

 

「金運があるので、お金は回ってると思うけど、何か気になります?」

 

リリーは一歩踏み込んだ。

 

「金運があるなら良いの。何とか生きていけてるのも感謝よね」

 

そこへサトシが厨房からティーセットを運んで来た。

 

「お待たせいたしました。牛子様、アッサムティーでございます。お好みでレモンを入れてください」

 

出来るボーイのサトシはさらっと牛子様と呼んだ。

 

「あら?素敵なティーセットね。匂いも良いし、角砂糖も洒落てるわね」

 

牛子はご満悦の様子だ。

 

「牛子ちゃん、私もビールいただいても宜しいかしら?」

 

リリーがスラッと聞いた。

 

「あ、あなたお酒呑むって前も言ってたわよね。どうぞ呑んで」

 

牛子の答えを聞いてサトシは厨房へ入って行った。

 

牛子は砂糖をたっぷり入れたレモンティーをひと口飲んだ後

 

「リリーちゃんは悩んでる人たちの話を聞いて解決してるんでしょ?」

 

と唐突に話を切り出してきた。

 

リリーは顔色ひとつ変えずに答える。

 

「皆んな答えを持ってるから、それを紐解くだけなのよね。悩んでいても、その状態にしがみ付いてる人に私の声は届かないから…」

 

「この前、話してたやつかしら?」

 

牛子は真顔になった。

 

「そう。この前も話になったけど、状況を変えたら楽になるよって外から見てたら思えるけど、渦中の人は全体が見えてないから…

 

状況を変えることを恐れるし、自分にも自信がなくて依存しちゃってたりする。

 

自分自身を攻撃したり、他人を攻撃したり…

結局、本人が決めてるの。

 

思考回路がストップしていたとしても、本人が全て決めてるの。

 

変わりたい、どうにかしたいって外に目を向けていく勇気を持ってもらえたら良いんだけどね。

 

そう思ってもらえない限り、助けられないんだ。

 

迷ってる人、困ってる人、解決策を見つけたい人…

 

いろんな人がいて当たり前だからね」

 

リリーは淡々と静かなトーンで話した。

 

そこへサトシがビールを運んで来た。

リリーはビールを受け取ると

 

「牛子ちゃん、いただきます」

 

と明るい声でビールグラスを牛子へ向けて軽く上げた。

 

「そうよね。何とかしてあげたい時に相手が現状を変える気がなかったら周りの人間は静観しか出来ないよね」

 

牛子はレモンティーのレモンをかじりながら言った。

 

「それより牛子ちゃん、家に黒い牛の置物は今もあるの?」

 

リリーが話を変えた。

 

「昔あったと思うけど、どこに収めたのか覚えてないわ。探してみないとね」

 

牛子が眼鏡を触りながら思い出そうとしていた。

 

「どちらにしても黒い牛の置物が見つかったら、しっかり磨いてね」

 

「えっ?磨いたら良いことでもあるの?」

 

「綺麗にしてあげて可愛がると幸運が舞い込むから」

 

「えー?それは帰って探さなきゃ」

 

牛子はオーバーなリアクションをして笑った。

 

リリーと牛子は親子ほど歳は離れているのにワイワイ話をして、あっという間に時間が過ぎていく…

 

・・・

 

後日、この日の帰りに牛子が停めていた駐車場

 

へ行くと料金所の窓口に埃をかぶった黒い牛の

 

置物があった。

 

落とし物で何年ここにあるか分からないから欲しいならといって貰って帰ってピッカピカに磨いて持ち歩いてるらしい。

 

黒い牛の置物というキーワードにアンテナを張っていたからこその出会い。

 

恐るべし牛子…

 

彼女の話は又今度…