第49話ーサクラとリリーの過去

今宵の【Bar Siva】は貸切。

オープンからラストまで、ある1つの団体様の名前で予約になっている。

それは

『あの世の公務員の同窓会』

オーナーママであるリリーは不思議な記憶の持ち主である。

あの世で働いていた記憶…

そして、そこにいたメンバーとの現世での同窓会が今夜開催される。

ボーイのサトシは、いつになく緊張している。

お店の準備も通常よりも早く出勤して既に完璧に済ましている。

リリーもいつもより早めの出勤をして来た。

今宵のリリーは、お気に入りの黒のゆるやかなドレスに大判のストールを巻いている。

濃いブルーのメイクに黒みかがった深紅の口紅。

スワロフスキーのロングのピアス。

ある意味、いつも通りだ。

「おはようございます。ママ、お早いですね」

サトシは安定の爽やかさで挨拶をした。

「そうね。サクラが早く着きそうって連絡あったの」

そう言ってリリーはいつもの定位置に立つとタバコを出して火をつけた。

「ママ、お先に始められますか?」

出来るボーイのサトシは察しが良い。

「お願いするわ。2個お願い」

「かしこまりました」

そう言うと不意にお店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

反射的にサトシが言って、笑顔で厨房へ入って行った。

「ママ、久しぶりですね〜。って相変わらずですね〜。何年も会ってない人には見えないです」

半分笑いつつ話しながら

カウンターの前までサクラが入って来た。

「いらっしゃい。ご無沙汰に思えないわね」

リリーは灰皿をサクラの前に出しながら言った。

イヤフォンを取り、ケースにしまいながら

「昨日から遠足の前の日の気分でしたわ」

とサクラが笑顔で言った。

「4人揃うのなんて何年ぶりかも思い出せないわね」

リリーは左手で顎の辺りを触りながら言った。

「本当ですよ。下手したら『あの世の記憶』の方が鮮明ですからね〜」

サクラは笑いながら席に座った。

厨房から出て来たサトシが改めて「いらっしゃいませ」を言いながらおしぼりをサクラへ渡した後に、ビールをサクラとリリーへ手渡した。

リリーはタバコを灰皿に置いてビールを持つと

「今宵は飲み明かしましょう!乾杯」

と言ってサクラのグラスに軽く当てた。

サクラも

「かんぱーい」

と笑顔で言って喉を鳴らしてビールを呑んだ。

サクラは唐突に切り出してきた。

「ママ、離婚して何年ですか?」

リリーはタバコを吸いながら

「10年は過ぎたわ」

と普通に答えた。

「もうそんなですか?やっぱり早いですね」

サクラは10年前の離婚騒動をよく知っている。

あの当時のリリーは離婚は決まってると分かっているからこそ苦しんでいた。

そう、リリーは2度目の結婚をする時に

『3年で帰って来ます』

と周囲に言ってから嫁に行っていた。

ん?

2度目?

そう、1度目の結婚、離婚話は又別で…

サクラはカバンからタバコを取り出して火をつけると、そのタバコの煙を見つめながら当時を思い出していた。

リリーが口を開いた。

「あんなに辛い想いは、もう要らないわ。

だけど、あれがあるから今があるし、最初から今世では別の人と結ばれるのが決まっていたからね。

私もあの人の子供を産み育てることが今世の目的の1つだから、ある意味クリアなの」

「そうなんですよね。それはあの時から知ってます。分かってます。それでも辛そうでしたから…」

サクラは視線をタバコの煙に向けたまま言った。

「あの時…サクラと院長に助けてもらったから今がある。ありがとね。本当に。おかげで今が幸せよ」

リリーはサクラを真っ直ぐに見つめて言った。

「本当にママ、幸せそうです。ってより人生を満喫してるって感じです」

サクラもリリーを真っ直ぐに見つめて言った。

「ありがとう」

「元旦那さんとは会ってるんですか?」

サクラはストレートにモノを言う。

「たまに立ち話するわ。業務連絡」

「そうなんですね」

「私たち、パートナーとしては無理だったけど、あの人の人間性とか素晴らしいと思ってるの。感覚としていえば遠い親戚のお兄さんみたいな感じかな?」

そう言うとリリーは微笑んだ。

「微妙な感じのニュアンス、わかりますわ〜。あの人、良い人ですよね。

最初の旦那さんも良い人でしたけどね。

ある意味…」

「あ、そうだね。両方知ってるからね。

どちらにしても2人とも幸せだったら嬉しいわ。

もうそこはクリアしてるから、前世と変わらないくらい昔のことに思えるわ」

リリーは懐かしそうに言った後に更に続けた。

「サクラも結婚したんだし、どう?」

「わ、わたしのことは良いんですよ。今日は、そういうのも全部横へ置いといて楽しんで帰りますから〜」

サクラはいつも以上に早口で言ってビールを呑んで続けた。

「それよりママ、娘ちゃん達は元気ですか?」

「元気よ。アリスは家を出てるけど、ココに来たりCoCoに来たりするわよ」

「ややこしいですが、伝わってます」

そう言うとサクラは笑った。

「チビは今、チカラのコントロールに苦しんでるわ。

学校でも街中でも聞きたくない音が聞こえて大変そうよ。

でも、こればっかりは本人がコントロールを覚えるしかないからね」

リリーは新しいタバコに火をつけた。

「その時期なんですね。私もありましたもん。

大変な時なんですよね」

サクラは思い出しながら眉間にシワを寄せた。

「お話中、申し訳ありません。ママ、定刻になりますが、看板はお点けしますか?」

サトシが中腰のスタイルで話しかけてきた。

「点けて。そろそろ来ると思うけど、2人とも体内時計ズレてるからね」

ってリリーは言ったあとにサクラにウインクしてみせた。

今から始まる『あの世の公務員の同窓会』は次回ゆっくりと…

今宵はココまで…