第51話ー魔女狩り
今宵の【Bar Siva】はオーナーママのリリーの記憶がある『あの世の公務員の同窓会』の続きである。
響、お蘭、サクラとリリー…
呑みまくりながら話は公務員よりも前の話になった。
「ところで、魔女狩りの時のことをどのくらい覚えてるの?」
リリーが唐突に皆んなに聞いた。
お蘭が1番に答える。
「私は結構覚えてると思うわよ〜。
ほら、水責めの時に私たちって『エラがあったかしら?』って思うほど
水の中で10分?20分かしら?それぐらい長くいられるじゃない?
それで自白もしないのに張り付けよ〜」
被せる様に響も話す。
「あれはエラあったって思うわよね。おかげで皆んなカナヅチじゃない?」
「私は泳げないけど、みんなも泳げないの?」
リリーが皆んなの顔を見ながら聞いた。
「泳げないわよぉ〜」
お蘭が即答する。
「泳ごうと思っても沈むよね?」
響が平泳ぎのジェスチャーをしながら答える。
話を笑いながら聞いていたサクラも
「皆んなカナヅチってウケますね。私も泳ぐのにジタバタするんで、泳ぐことを諦めましたわ」
アメリカンなジェスチャー付きで説明した。
「で、魔女狩りの時のことって他に覚えてることある?」
リリーが話を戻した。
「私も水責めにあって、何か暗い石畳みの牢獄に閉じ込められてたのは覚えてるけど、ハッキリした処刑って、どうだったかな?」
響が左手で自分の頬を触りながら言った。
「覚えてないよね。あれは覚えてたら地獄だと思うから、さすがに生まれ変わっても記憶ないままなのね」
お蘭が首を小さく左右に振りながら痛そうな顔をして言った。
「えっ?私はあの時、結局何で死んだの?」
響がストレートに聞いた。
「張り付けにされた後に火あぶりよ」
お蘭が淡々と答えた。
リリーは黙ってタバコを吸いながら話を聞いていたが口を開いた。
「私たち別々の場所に囚われていたのに断片的な記憶の中に処刑のシーンを見るの。
響は火あぶり…
お蘭は張り付けの後、槍で心臓を刺されて…
私は張り付けの後、弓の矢が左眼を貫通した…
サクラは処刑されてないわ」
「ママ、それで先端恐怖症なんですか?初めて知りました」
サクラは驚いて言った後に続ける。
「私、死んだ時の記憶がないんです。魔女狩りは強く記憶に残ってるのに自分が処刑された場面が思い出せなかったのは、そういうことなんですね」
「私だけ火あぶりって酷くない?」
響がそういうと自分のタバコに火をつけた。
「確かに1番辛い処刑よね。とは言ってもあたしもリリーも処刑されてるだけで散々だけどね」
お蘭が熱燗のお猪口を右手に持ったまま言った。
「素朴な疑問なんですけど、ママは処刑されてるのに私が処刑されてないって記憶は、どっからくるんですか?」
サクラが不思議そうに聞いた。
「それは多分、皆んなを右手で触った時に昔の映像ももらってしまうからかもしれないわね」
リリーはそういうとボーイのサトシに向かって空のビールグラスを見せて目配せをした。
出来るボーイのサトシは無言で小さく頷くと厨房へ入って行った。
お蘭が厨房のサトシに向かって
「おかわりぃ〜」
と言うと
「かしこまりました」
とサトシの爽やかな声が少し遠くから聞こえた。
「結局、サクラは処刑されてないってことは、どうやって生き延びたの?」
響が気になってたことを聞いた。
「それは王宮の専属の占い師になったのよ」
リリーが即答した。
「それって、魔女って括りじゃないの?」
お蘭が聞く。
「分かった上でだと思うわ」
リリーがサトシからビールを受け取りながら答えた。
お蘭もサトシから熱燗を受け取ってから
「だとしたら、殺された私たちって可哀想じゃない?」
わりと真顔で言った。
「本当よね。私なんて火あぶりだし…覚えてないけど、だからこそ火の扱いをするお使いを持ってるってことよね?」
響がシャンパングラスを持ったまま少し大きめの声で言った。
「そうかもねー」
お蘭が即答した。
火の扱いをするお使い???
疑問は多くはなりますが、そこを話すと1話以上かかるので、それは別の機会で…
「それを言うなら私のところも水使うお使いだからねぇ」
リリーの発言が余計に謎を深める…
「でも、私も色んな感情の記憶がありますし、大変だったんだと思います」
サクラが真顔で言った。
「そんなの、冗談に決まってるじゃな〜い」
お蘭は右手でスマッシュの振りをしながら言って笑った。
「サクラ真面目過ぎぃ〜」
響も笑いながら言った。
「どっちにしても次、いつ集まるか分からないけど宿題は忘れずにね」
リリーも笑いながら言った。
サクラは皆んなの顔を見て両手を上げてアメリカンな仕草でおどけてみせた。
今宵はココまで…