第52話ー魔女狩り2「細胞の記憶」

今宵の【Bar Siva】は通常営業である。

 

昨夜の『あの世の公務員の同窓会』の内容が濃い過ぎて、ボーイのサトシは頭の中の整理が出来ていなかった。

 

オーナーママのリリーに質問したいことが山積みである。

 

しかし、出来るボーイのサトシは仕事を完璧にしておいて、ママのご機嫌も伺った上で自分の疑問を解決するという欲求を満たしたい。

 

それは昨夜から考えていたことである。

 

だからサトシは、いつもより早めに出勤をして店の準備を全て済ませていた。

 

そこへリリーが出勤して来た。

 

「おはよう」

 

店のドアを開けて入って来ると同時にリリーが言った。

 

「おはようございます」

 

出来るボーイのサトシは通常の2割増しの爽やかなトーンの声とフルスマイルで挨拶をした。

 

今宵のリリーは黒の長袖でゆるふわなサイズの足首まであるワンピースに、ややショートのブーツ。

 

黒の皮のロングコート、メイクは普段より濃いめの紫で口紅は最近お気に入りの黒みがかっている深紅、これはアリスがプレゼントしてくれたものらしい…

 

厨房の横にあるクローゼットにコートを収めてリリーは定位置についた。

 

タバコを取り出し火をつけて静かに目を瞑る。

 

ある意味リリーのルーティンのようなものである。

 

当然サトシは邪魔をしない。

 

今日の予約の確認をバインダーを開いてチェックするふりをしながら様子を伺っている。

 

リリーが目を瞑ったままタバコの煙を天を仰ぐように上へとゆっくり吐き出す。

 

まるで何かの呪文を唱えてるかに見える。

 

サトシは今日の予約から、リリーの瞑想の時間が短いだろうと推測していた。

 

『ビンゴ!』

 

サトシは心の中で叫んだ。

 

リリーの瞑想が終わったのだ。

 

それを見計らってサトシが話しかけた。

 

「ママ、昨日の同窓会の中で、いくつかお尋ねしたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」

 

リリーはチラッとサトシを見て

 

「何かしら?いいわよ」

 

と言ってタバコを消した。

 

「ありがとうございます。魔女狩りにあっていたことは昔からご存知だったのでしょうか?

 

例えば、生まれてから気が付いた時には魔女狩りの記憶があったとか?」

 

サトシは質問をしながら2歩近づいて来た。

 

「そんなことないわよ。魔女狩りの記憶は私が大人になって、ある日突然思い出したものなの」

 

「えっ?ある日突然ですか?」

 

「そうなの。たまたま観ていたテレビの特集で魔女狩りについてやってたの。

 

その時に映った中世ヨーロッパの牢獄や処刑の場所、場面がながれてきて、思わず目を奪われたの。

 

そして、次の瞬間、自分でも驚くことに

ツーーっと涙が溢れてきて、泣く気もないのに涙だけ溢れて止まらなくて…」

 

「それって、泣く感情ってわけではなくですか?」

 

「そう。ただ、その映像を観て、自分の細胞が思い出したのだと思う。

 

あっ、私…

 

ここに閉じ込められていたわ…

 

あっ、この場で殺されたんだ…

 

って処刑されたことを思い出して涙が止まらなかった。

 

私は何もしてないのに…」

リリーは話終わるとタバコに火をつけた。

 

「ママ、冤罪だったのですか?」

 

サトシが静かなトーンで質問した。

 

「冤罪ってよりも能力者を怖がって一方的に罰するものよね?魔女狩りって…

 

よく言う悪魔との契約って何?

 

そもそも悪魔って何かしら?」

 

リリーは淡々とその当時を思い出し力強く切なそうにサトシに聞いた。

 

「本当ですよね。悪魔の定義って何なんですかね?」

 

真顔でサトシが答える。

 

「そう言うことなのよ。つまり、皆んなよく分からないのに個々の意見や感情のものが悪魔として世の中に蔓延している…」 

 

リリーはタバコを持った手を左右に揺らして煙が揺れるのを見つめながら話した。

 

「一般的に悪魔といえば悪いやつというイメージですよね?昔でいうとオーメンとか近頃はデスノートとか…」

 

「それも何かと悪魔と契約とかあるでしょう?」

 

「はい。悪魔と契約は有名アニメの主人公が心臓を渡して契約成立させてましたよね?」

 

サトシが前のめりに話す。

 

「そうね。でもね、私たち、魔女狩りにあった時に誰も悪魔と契約なんかしてないのよ。

 

だって、契約って相手の配下とか支配下とかでしょ?

 

そんなの無理なメンツじゃない?」

 

「そ、それはそうですね」

 

「結局、自白もしてない私たちを処刑したの。自白したと偽造工作して」

 

「えー?って言ってもその時代だとどうしようとないことだったんですよね?」

 

サトシは大きな溜め息と怒りの感情が混じった声で言った。

 

「そうね。仕方のない時代だったのよ」

 

リリーは何故かスッキリした顔で答えた。

 

「悪魔って怖いものと思ってるのは人間の勝手なる妄想なのですか?」

 

サトシが疑問を素直に聞いた。

 

「そうね。でも、私の能力も悪魔って呼ぶ人はいると思うわよ。

 

だって、自分が持ってない能力を人は怖がり、気持ち悪がり、批判もすると思うの。

 

それが普通の人間の感覚じゃないかな?

 

私は感謝されることもあるけど罵倒を浴びせられることもある。

 

そんな感じよ…」

 

リリーは淡々とサトシの顔を見ながら答えた。

 

「奥が深いんですね…」

 

サトシが俯き気味に言った。

 

「そうかな?複雑にしてるのは個々の頭の中だけだと思うわよ」

 

リリーはそう言った後に続けた。

 

「何はともあれ、ビールもらえるかな?話してたら喉が渇いちゃったわ」

 

「あっ!すみません。かしこまりました」

 

サトシは裏返った声でそう言うと厨房へ入って行った。

 

今宵の【Bar Siva】間もなくオープンです…