第55話ールルコ

「ありがとうございました」 

ボーイのサトシの笑顔と安定した爽やかな声が店内に響いた。

サトシはカウンターの上を片付けながら、このお店【Bar Siva】のオーナーママであるリリーに

「今夜は次の方で最後です」

と業務連絡なのに爽やかに言った。

リリーはカウンターの中の定位置で小さく頷いた。

そこへ今宵の最後のお客様が店のドアを開けて入って来た。

「いらっしゃいませ」

サトシは笑顔で振り向きながら言った。

「こんばんは〜。なんだか久しぶりでテンション上がるわ〜」

その女性、ルルコは『ゆるふわ』とした雰囲気をまとい、キッラキラの笑顔で話しながらカウンターの前まで来た。

ルルコはふわっとした濃い緑色がベースで小さなお花が全体に散りばめられているワンピースを着ていて、黒髪のセミロングで小さく揺れるイヤリングを付けている。

リリーは笑顔で

「こちらへどうぞ」

と右手でカウンターの席を案内した。

「ありがとう。今日は何か温かいもので」

ルルコは席に座りながらサトシに向かって言った。

「かしこまりました。本日、ルルコ様がお見えという事で、黒豆茶をご用意させていただきました。ジャスミンティーもございますが、いかがいたしましょうか?」

「そんなのルルコ様のために御用意してもらったなんて嬉しいわ。

黒豆茶をお願いします。んふふ。

それとリリーさんにビールで」

ルルコは鼻唄でも出そうなほどのテンションで答えた。

「かしこまりました」

サトシはお辞儀をして厨房へ入って行った。

「今日も忙しかったの?」

リリーがタバコに火をつけながら聞いた。

「いつも通りかな?一旦家に帰って晩ご飯を作って出て来たから少しバタついた感じかしら?

リリーさんも相変わらず忙しかったのかしら?」

ルルコはおしぼりを触りながら言った。

「忙しくはないわ。いつも通りよ」

とリリーはタバコを吸いながら答えた。

そこへ厨房からサトシが飲み物を運んで来た。

「お待たせいたしました。ルルコ様、黒豆茶でございます」

サトシはそう言ってティーセットをルルコの前に置いた。

もちろんビールはリリーの前に置く。

リリーはビールグラスを持って

「いただきます」

と小さく言ってグラスをルルコへ向けて上げて見せた。

「はーい。どうぞ。私は黒豆茶の良い匂いが…」

ルルコは言ってる途中で深呼吸をして黒豆茶の香りを楽しんだ。

「ふぅ、素敵ね。本当にこういうの嬉しいよね。私の事を思い浮かべて準備してくれるとか…」

ルルコは細やかな気遣いに感動していた。

黒豆茶の香りを楽しみながらひと口飲んで

「んー落ち着くわ。良い感じ。うふふ」

ゆるふわ全開でマッタリして言った。

そして急に現実に戻ってきたルルコは唐突に質問をする。

「そう言えば、サチ子は?」

リリーは口元で笑った後に答える。

「もうすぐ来ると思うよ。サチ子って名前ではないけどね」

「そうだっけ?私の中ではサチ子になっちゃってるわね」

「そうね。この前からそう言ってるわよね」

リリーは笑みを浮かべたままビールを飲む。

ルルコはマイペースに黒豆茶を飲みながら

「なんだか笑えてきた。いいよね。世の中の皆んなが笑えてきたら平和じゃない?」

唐突なことを言い出す。

リリーはその感覚がとても好きで緩んだ笑顔でルルコを見守りながら

「世界中の皆んなが笑っていたら戦争は無いかもしれないわね」

と真面目に返す。

「でしょ?皆んな難しく考え過ぎてる気がしない?もっと楽しめばいいのにね」

「皆んながそうなれたら嬉しいし、この世に生まれて来たのだから皆んな幸せになれたら良いよね」

リリーはタバコの煙が天井へ昇っていくのを見つめたまま言った。

ルルコは黒豆茶のカップの縁を触りながら

「世界の人が毎日良い気分で過ごせたら全てのエネルギーがキラキラして皆んながニコニコになって幸せのオーラに包まれるって、考えただけでも嬉しくなるよね」

あたたかいエネルギーを発しながら言った。

「世界中の人がルルコさんと同じ考えだったら犯罪もなくなるかもね」

リリーは小さい声で呟く様に言った。

リリーはルルコのハッキリした考えと見た目柔らかい人当たりが大好きだ。

興味のない音は彼女の耳には届かないだろうし、興味のあること、楽しそうなことに関しては即実行する行動力も魅力的である。

後から来るサチ子こと千ちゃんも個性的な性格だが、3人が集まるのは化学反応が起きそうで楽しみである。

いわゆる2人とも宇宙人である。

・・・ん?

宇宙人?

と思うかもしれませんが、それは千ちゃんが来てからのお楽しみと言うことで…

今宵はココまで…

See you soon.